ぼくと夢の木
少し伸びるとつるが出て、ぶどうかもしれないからって、育てることにしたんだ。
つるは、秋には屋根にとどくほどりっぱになったけど、できた実は小さなかぼちゃみたいで、しかも、一個ずつ色がちがうときてる。
「きみがわるいわ。切っちゃいましょう」
ママがいったけど、ぼくは止めたんだ。だって、せっかく今まで育てたんだもん。
その夜、夢の中で歩いているぼくの目の前に、とつぜんいばらのしげみがあらわれた。
「たすけてください」
頭の上で泣き声がした。見上げると、とげにひっかかった人がいる。それもへんな服をきて。
どうしようかとあたりを見回したら、なぜかそこは、ぼくんちの庭だった。
どうせ夢だ、と、ぼくはつるから黒い実をちぎると、ばくだんのつもりで投げてみた。そしたら、ぱぱぱぱぱーん!
と、ほんとうにばくはつして、いばらはこっぱみじんになっちゃった。
「ありがとう。命びろいしました」
その人は、白い馬に乗って森の向こうに消えていった。
朝、起きたら、まくらもとに『いばら姫』の絵本がおいてあった。
寝る前に、ママが絵本を読んでくれるけど、ぼくはすぐに寝ちゃって、ろくに聞いていないんだ。いつも。
絵の中に、夢であったのと同じ服を着た人がいた。そうか。あれは王子様だったのか。
庭のつるを見たら、実が一つなくなっていた。
こいつはもしかして……?
次の夜、ぼくは何冊かおもしろそうな絵本をまくら元において寝ることにしたんだ。
うとうとしてきたときだった。さわさわという音がするので、外に出てみたら、つるが空の上の方までのびている。
ぼくはさっそくのぼってみた。とちゅうで実を取って、ポケットに詰めこめるだけ詰めこんだ。何かの役に立つと思ってね。
雲の上について、少し歩いたら、大きな家があった。きっと大男の家だ。
のぞいてみたら、あれれ?
いるのは鬼だ。赤や青の鬼たちが楽しそうにお酒を飲んでいる。すると、とつぜん一人の鬼が鼻をひくひくさせて言った。
「人間のにおいがするぞ!」
しまった。みつかった。
ぼくがすたこら逃げ出すと、鬼たちは大勢で追いかけてきた。
やっほー。これがほんとの鬼ごっこだ。
ぼくは実をいくつか鬼にむかって投げた。すると、緑の実は山に、青い実は川になった。鬼は山を登ったり、川を泳いだりして、追いかけてくる数は半分にへった。
もう一つの実からは、犬やさるやキジが出てきて、残った鬼と戦ってくれた。
それでも、まだ何人かの鬼がぼくに追いつきそうになったので、ピンクの実をぶつけたら、鬼のかおやからだにこぶがくっついた。鬼はいやがって、こぶをとろうとしている。
そのすきにつるをおりはじめたら、赤鬼がひとりだけ追いかけてきた。しつこいやつだ。
でも、赤い実が打ち出の小づちになって、そいつをぽかぽかなぐったら、みるみる小さくなっちゃった。
ぼくは早く地上におりようと、白い実を投げてみた。うまくしたら、白鳥でもでてくるかなと思って。
そしたらガチョウが出てきて言ったんだ。
「ラップランドへ行く?」
ぼくんちまでだと言ったら、近すぎるからいやだって、どこかへ飛んで行っちゃった。
でも、茶色の実からでてきたたくさんのカモたちが、五重塔までいくついでだといって、乗せてくれたので楽ちんだった。
地上におりて、ほっとしたとたん、
「こらあ、まてえ」
と、つるの上から声がする。あの赤鬼だ。からだは小さくても声はでかいや。
急いで、黄色い実を投げたら、金色のおのが出てきたので、それを力いっぱいふり下ろして、つるを切りたおしたんだ。
「あー、楽しかった」
朝、ぼくは気もちよく目が覚めた。ベランダに出て庭を見ると、つるが根もとからたおれて枯れている。しまった。ちょっと、よくばりすぎたかな?
絵本を見てみたら、『ジャックとまめの木』の最後のページから大男が消えていた。
そのかわり、まめつぶみたいな赤鬼がすみっこにいるんだ。めそめそ泣いてさ。
しかたない。今度また芽がでたら、もどしてあげるよ。
ぼくはにやっと笑って、絵本をとじた。