死神に鎮魂歌を
プロローグ
少女は今、死んでしまった。
白いシーツ白いベッド白い壁白い床白い、空間。白い病院の一室で一人の少女が今、静かに息を引き取った。
現代医療では治療方法が未確立の先天性の病に侵され、担当医師から成人するまで保たないと少女の両親には宣告されてその通り成人するのにまだ四年もある十六歳の時にやっと少女は死をもってその病から解放された。
ベッドの周りには少女の家族。父、母、少女の弟。そして担当医師。泣き崩れる母親と堪えようとしても出来ずに涙を流す弟と、逆に泣かないからこそ痛々しさが際立って目立つ表情で二人を支える父親。唯一表面上には何の哀しみもなかったのは、少女の片目を指で開いてペンライトの光をあてて眼球反応を見ている担当医師だけだった。
その医師がペンライトを白衣に戻して少女の目をきちんと閉じると小さく首を横に振った。
それだけで母親の嗚咽の声が強くなる。
それから医師は自分の左手首にしている時計を見て、厳粛に命が消えた時を告げた。
最早確定事項。どうしようも出来ない事実。今、一つ命が消えた。
逆らえない命数。刃向かえなかった運命。少女が今死んだ。
けれど。少女はココにいた。
自分を取り巻く状況全てを黒い瞳に映して、ベッドから上半身を起こして泣き崩れる家族を見るに耐えられないとでも言いたげな沈痛な表情をしながら。
元々ほとんど病院の外から出る事が叶わなかった身体は文字通り病的に蒼白く、いつか透けるような肌だと自分で思っていた肌は今度は本当に透け黄色人種特有の肌の色が半透明になり身体の向こう側が見えた。
確かに少女はココにいた。けれど誰にも認識されない霊の姿となって。
ベッドの上で眠りもう二度と目覚めないはっきりした実像を持った少女の肉体と、今にも空気に溶けてしまいそうなほど儚い少女の対比が何よりもそんな非現実的な事実を雄弁に語っていた。
その時。
「高槻志織さん、ですね」
凛とした声が響き、少女の真っ白い病室に異分子のように黒い影が現れた。