小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

漆黒のヴァルキュリア

INDEX|24ページ/45ページ|

次のページ前のページ
 

第三章 これぞ勇者! いろんなイミで! 2



 第33回、春のコミックカーニバル。
 関東湾岸の片隅で、場所に似付かず盛大にそれは始まった。
 五万人収容できるはずの多目的商業施設が、しかし人を収容しきれずに悲鳴を上げている。
「さぁて、今回の『戦場』はここだぜムニン!」
 上空から群集が蠢く様子を満足げに眺めながら、エナはうずうずと武者震いしている。
 が、それに比して、ムニンの表情は硬かった。
「……なんか、異様な情念というか……これまで感じたコトのない雰囲気を感じるのですけれど……まぁ、この混沌とした状態、確かに戦場に似てなくもないですわね……」
「今日で二日目だ。一日目に見かけたアイツ、また来てるといいんだけどなぁ……」
 言って、エナはその人物を眼下に探す。
「あ〜……アレですわね〜……」
 先に見つけたのはムニンだった。ムニンの示す先に、確かにその人物はいた。
 大きな特徴としては、巨躯である。身長は二メートルを軽く超えるであろう。そして、何よりその巨躯は、筋肉の鎧で覆われていた。
 普通の人間では、群集の流れに任せてしか動けないであろうこの状況で、その人物は無人の野を行くが如し、といった風情で会場の入り口に近づいていく。
「あれってマナー違反なのでは……?」
「っつーか、マナー云々の前に、モロ投げ飛ばしてるしな〜……って、おっ?」
 数人が宙を舞い、人の波の中へと消えていく。そこから少し離れた場所で、やはり同じ現象が起こっている。
「……丸いな……」
「……丸いですわね〜……」
 そこには、第二の巨漢がいた。しかし、エナが最初に目をつけた者とは違い、筋肉質というには程遠い、体脂肪率の高そうな男だった。しかも何気にロン毛である。
「うを〜〜〜っ! 待てやこらああぁぁぁっ! ヴォルケェノ!」
 丸いのが、少し前を行く『目標』に向けて咆哮した。
 その声を受け、『目標』もまた咆哮する。
「誰が待つかボケ〜〜〜っ! 実力で来いや濱ノ海ぃ! 限定カンナちゃんフィギュアは、絶対キサマには渡さん!」
 まるで大海を泳ぐシャチの様に――
 二人の『勇者』は建物内に吸い込まれていった。
「……え〜〜と……二人はライバル……? みたいですわね?」
 そう言ってムニンがエナを見ると、その視線の先では、エナが瞳を輝かせていた。
「すげぇぜムニン! ひょっとすると! 二人同時にエインヘルヤルゲットっ!?」
「……いや、欲はかかない方がいいのでは……?」
 そう言ってエナを落ち着かせようとしたムニンだったが、しかし、
「こうしちゃいられねぇ! 俺たちも行くぜっ!?」
 開口一番、エナはムニンの足を引っ張り、『勇者』二人の後を追って建物内に入っていった。
 が、その刹那の事だった。
『……え?』
 不意に、意図せずエナとムニンの肉体が実体化し、そのまま落下した。
「え? え? え?」
 エナとムニンは訳も分からず、群集の頭上に乗ったままで、周囲を見回す。
 刹那――

「重てぇぞ! どけろよネェちゃん!」
「YABEEEEEE! ワルキューレじゃん!」
「ウソマジスゲ〜〜〜ッ! クォリティめっちゃ高いんですけど!」
「かっわいい〜〜〜〜!」
「ハンドル教えて〜〜〜っ!」

 怒号の中に、それらの文句が混じって届いた。
「あわわ、ごっ、ゴメン! 今どけるからっ!」
 言って、エナは遠くに見えた化粧室の看板に向けてダッシュする。
 踏まれた群集の悲鳴が上がるが、そんなものを気にしている余裕は、エナにはなかった。