漆黒のヴァルキュリア
「……ふん、死神風情がナメんなや。雷飛ばすしか能ないクセに。懐入られたら、こないにモロいやんか。さぁ〜てぇ〜? このままなぶり殺したるから、覚悟しぃやぁ〜?」
怒りの中に愉悦を滲ませ、天女は半身に構えた。
だが、その余裕の貌が、次第に驚きに彩られていく。
天女の目前で、エナの髪の色が一瞬にして変わったのだ。煌く金色から、虹色の光沢を乗せた、漆黒へと。
それだけではない。身に纏う物の色彩までもが変わっていた。胸当ては青から白く。ロングスカートは白から紅へと。まるで、日本の巫女装束の様に。
驚く天女の視線の先で、おもむろにエナは立ち上がった。
そして、再び刀を胸の高さに掲げる。エナは円盾を捨て、右手は刀の柄を、左手は鞘を握っていた。
刹那、エナの両眼が鋭く光った。
「ちっ!」
天女は後ろに跳んだ。
その胸元を、鞘走りの切っ先が掠めていく。
が――
天女が避けられたのは、その初太刀だけだった。
続く無数の返しの刃に――
「うわあああぁぁぁぁっ!」
今度は天女がその場に崩れ落ちた。
「……またつまらぬモノを斬ってしまった……って、峰打ちだけどさ?」
そう言ったエナもまた、その場に膝を突いた。
そのエナの眼前に、ムニンが降りて来る。
「……お久しぶりですわね? 春日恵那」
「お久しぶりだね、ムニン。ボク疲れたから、またエナと交代するよ。あとよろしく〜」
そう呟くと同時に、エナの髪と服の色が元に戻っていった。
作品名:漆黒のヴァルキュリア 作家名:山下しんか