MIROKU
閲覧スル者
「これは人類の英知っていうよりも悪魔の所業だな」
ドクターはミロクの微小機械の情報解析結果を見ながら呟く。
「他との境界、代謝、複製、そして、進化……やつら、生命を創ろうとしてたのか?」
生命の四大要素。つまりは、自他の境界を持ち、栄養と構成物を外界から取り込み、自らの複製を作り出し、そして、進化する。
「より効率的な完全不死へ、か」
完全不死のメカニズムはまだ判明していないが、今までの微小機械の消耗という物理限界を克服しているだけでも悪魔の仕業だった。
「しかし、これが『感染』するとなると、――世界が滅びかねないな」
かといっても、彼女を完全に殺すことは不可能。今できても生命活動の停止が限界だ。
「施設01791でこれを造っていた研究グループは壊滅したから、再びこれが開発されることは無い、が」
これは爆弾だ。世界を破壊する爆弾ではなく、世界を殺す爆弾だ。
「今日は、ドクター」
研究室に老獪な声が響いた。
「これは、ミスターオクトパス。どう言ったご用件で?」
完全不死微小機械のファイルに素早くロックをかけ、ドクターは来訪者の名を呼んだ。
ミスターオクトパスと呼ばれた白灰の老人は、人が休めるように設置された椅子に座る。
「いや、ただの気まぐれだよ、ドクター」
「またまた、偉大なる企業『エイトグループ』の会長である貴方が気まぐれに此処に来るとは」
少々考えに困る言葉ですね、と言いつつもオクトパスにコーヒーメーカーで作られたコーヒーを出す指令を送る。
ベンチの手すりにあった小さなトレイに、コーヒーがアームによって置かれる。
オクトパスはそれを手に取り、口をつけた。
「熱くもなくぬるくもなく、ふむ、美味しい。まだ私の好きな温度を知っていたとは、おみそれするよ、ドクター」
「お粗末さまです。で、どんな気まぐれで此処に?」
「いや、ただのデータベースの閲覧だよ」
「ああ、分かりました」
オクトパスが此処に来るときは、大体データベースから知りたい情報を閲覧する時だということをドクターは思い出した。
「ではどうぞ」
「すまないね」
閲覧機械がオクトパスの前に自走して止まる。オクトパスはキーボードを叩き、閲覧ソフトを起動させた。
「そういえば、施設01791は無事破壊できたのかね?」
「ええ」
「ならば、『アレ』はここにあるというわけか」