わが家の怪
─壱─ 《白い影》
最初に【それ】を見たのはいつだったか……たしか、小学校4年生くらいだったと思う。
その晩。
両親は近所の知り合いの家に出かけていて、姉とわたしの二人で留守番をしていた。
わたしたち姉妹には弟がいるが、その日はたぶん親戚の家に泊まりに行ったかして、不在だった。
とにかくその晩、家にいたのは中学生の姉とわたしの二人だけだった。
わたしの生まれ育った町は、漁師町で朝が早い。当然夜寝るのは早く、8時には床に入るのが習慣だった。
けれどその日、8時になっても両親は帰ってこなかった。それでも、わたしたちはいつものとおり、8時には床に入るつもりでいた。
わたしたちの部屋は、母屋から別の離れにある。姉がそっちへ行こうとした。
ところが、なぜかその晩、わたしはその離れの部屋で寝るのがいやで仕方がなかった。
「今日は、こっちで寝ようよ」
と言ったわたしに、姉は一瞬「なんで?」というような顔をしていたが、気軽に承諾してくれた。
ところが、さらにわたしは姉にこういったのだ。
「一緒に寝て」
布団を並べて寝るにもかかわらず、なぜかわからないが、その日のわたしは一人で寝るのがたまらなく怖かった。
しぶる姉に頼み込んで、一つの布団で眠ることになった。
寝入ってから、どのくらいたったのか。
トイレに行きたいわけでもないのに、わたしはふと目を覚まし、そして、何気なく床の間の方に目をやった。
!!!!!!!!!
たちまち、わたしは全身に冷や水を浴びたようにぞっとした。
白い影が床の間に立っている。
髪の長い、着物を着た女の人のようだった。
わたしはあわてて布団に潜り込み、姉を揺り起こした。
「ねえ、起きてよ。起きてよ」
しかし、姉はちっとも目を覚ましてくれない。
「おねえちゃん! 起きてよ」
何度も揺すったが、まったく起きる気配もない。
わたしは【それ】がどうなったか、怖いものみたさで、そうっと布団から顔を出した。
すると、もうその姿はなかった。
そのうち外で声がして、それが両親だとわかると、ほっとしてわたしは眠りに就いた。