ついのべ比較「夕焼け」
夕焼けは嫌い。元カレを思い出すから。
最初のデートも、最後のデートも、思い出すのは鮮やかなオレンジ色。
夕方になると浮かない顔になる私に気づいたのは、同じサークルの男友達。
いつも天気のいい夕方は、しょんぼりするんだな、って、「いつも」っていうほ
ど私のことを見ているの?
もう恋なんてメンドクサイ。裏切られるのはまっぴらだ。夕焼け空を背に、こち
らを見ている元カレのシルエットが私の中から消えない。
だから言った。
夕焼けは嫌い。元カレを思い出すから。
言う必要のないこと。だけど言いたかった。私はまだ元カレのことを想っている
のだと思わせたかった。
どうして?
あなたとは馬鹿を言い合える、気の置けない友達のままでいたかったから。
予防線を張ったのは、あなたに対してじゃない。寂しくてグラつきそうな私自身
に対してだ。
翌日。
出会い頭に白い箱を渡された。洋菓子屋の名前が入ったその箱の中には、鮮やか
なオレンジ色をしたゼリー。透明感があって、初めて見るのにどこかで見たような
色だった。
あ、夕焼け。呟くと、うん。夕焼け、とあなたも言った。
食っちまいなよ。夕焼け。
休講になった教室で、ゼリーを食べた。なかば透き通るオレンジ色は、まるで沈
む太陽。口に運ぶと甘くて酸っぱい。
おいしい、と声に出すと、あなたはとても嬉しそうに笑った。
ああ、好きになりそうだ。
夕焼けも、あなたも。
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夕焼けは嫌い、元カレを思い出すから。それは本当だけど、あなたにグラつかない
ための予防線でもあった。翌日、ゼリーを渡された。夕焼け、喰っちまえ、と。な
かば透き通るオレンジ色は、まるで沈む太陽。口に運ぶと甘くて酸っぱい。ああ、
好きになりそうだ。夕焼けも、あなたも。
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作品名:ついのべ比較「夕焼け」 作家名:よしのちほ