ストイコビッチのキックフェイント(笠井りょう)
着替えを終えて、私たち三人はフィールドへ戻る。着替えながら話した感じだと、智美も恵梨も反対サイドで練習試合をしているチームのことは知らないみたいだった。「やっちゃん」と爺ちゃんは向かい合ってダイレクトボレーパスを交し合っている。遊びなのか練習なのかボケてるのかは、遠くから見ててもわからない。私たちの知らないどこか別の世界のチームがしている練習試合は、見ないうちに攻守が逆転していた。何度目の攻守交替かはわからない。私たち三人もいつも通りクールダウン用に軽く身体を動かし始める。ピッチを往復するジョギングから、ピッチを歩き回りながらボールを軽く蹴って受け渡ししたり、座り込んでストレッチをしたりしていた。なんとなくやってみたくなって、私は他の四人を集めて、プラティニのあのプレーを再現してみたい、と頼んでみた。みんな快諾してくれた。
というわけで、やってみた。
作品名:ストイコビッチのキックフェイント(笠井りょう) 作家名:早稲田文芸会