休日の天気雨
休日の遅い午前中、私の旦那さまになったばかりの彼はまだ布団の中で微睡んでいる。
今日はきっとピクニック日和だ。さっきスコーンを焼いたところだしちょうどいい。
綺麗なきつね色に焼きあがったそれは、まだオーブンの中で香ばしい香りを漂わせている。
せっかくだから、お茶をもって公園にお散歩にいくのもいいかもしれない。
まだ彼は起きてこないし、せっかくだからお弁当も作ってもいいな。
そう思って材料を探して冷蔵庫を開けたところで、玄関のチャイムが鳴った。
「はあい」
私はぱたぱたとスリッパを鳴らしてドアホンのモニタを覗く。
「書留でーす」
郵便屋さんだ。私は扉を開ける。
「毎度どうも」
「お疲れさまです」
書留を受け取って印鑑を押す。そのときにふと郵便屋さんの袖が濡れていることに気がついた。よく見たら細かな雨粒が帽子や肩に乗っている。
「あら?雨ですか?今とてもよく晴れていると思ったのに」
「ああ、天気雨ですよ。急に降り出しましてねえ」
郵便屋さんが少し体をずらすと、その向こうに広がった空は見事な青空、太陽の前に薄く紗がかかるように細かい雨が降っている。
「最近突然の天気雨が多いですね。ついこの間もあった気がしますよ」
「本当ね」
ふわりと私の口元が緩んだ。
「なんだか嬉しそうですね」
「ええ。あ、そうだ、郵便屋さん、良かったらスコーン少し召し上がりませんか?お祝いがてらお裾分けに」
「お祝い?」
「ええ、私の友達が嫁入りするみたいだから」
言いながら、私は台所からスコーンをいくつか包んで持ってくる。これはいい匂いだと郵便屋さんは目を細めた。
「そういえば奥さんも新婚でしたね。これはたて続いておめでたい」
ふふ、と、きつね色のスコーンを渡して、私はもう一度空を見上げた。
そうね、お弁当はおいなりさんにしよう。できあがった時には、仲間の嫁入り行列が終わっているかしら。