有言実行
教室の一番前で繰り広げられる教師の説教を真面目に聞かないためにすでに教師の言葉も漫才のツッコミにしか聞こえていない。
言うなれば僕の幼馴染はボケと言うことになるのだろう。
幼馴染の名前を湯佐俊介という。
俊介はこのクラス一の問題児だ。
まず成績が悪い。
赤点を取っていないテストを見たことがない。
素行もあまりよろしくない。
いや、悪いわけじゃないんだよ。
ただバカなだけで。
今も廊下に白線をぶちまけたとかで怒られていたはずだ。
しかしのらりくらりと小言をかわし、何故か話はまるで違うところまで来ている。
教師もすでに何で怒っていたのかとかどうでもよくなってるんじゃないかと思う。
だったら早く切り上げればいいものを何の体面か説教は延々続く。
ちなみにこれが終わらないと僕たちは帰れない。
今はLHRの時間だったから…。
暫くの間僕らはこのふざけた説教劇を観賞することとなった。
長々と延長されたLHRが終わって僕は俊介と共に自室にいた。
俊介の家は隣にあるのでどれだけ遅くまでいても咎められることはない。
もともと兄弟のように育ったから。
気心の知れた仲で遠慮することもそうそうない。
僕はゲームをしながら俊介に尋ねた。
「なんで廊下に白線なんかぶちまけたのさ。粉が舞って悲惨なことになってたじゃないか。」
「うん、廊下に絵が描けないかと思って。」
俊介の答えはひどくあっさりしたもので、理由も馬鹿げていた。
正直、聞くんじゃなかったと思った。
目の前ではシューティングゲームの激しい打ち合いが始まっている。
適当に2人で敵を蹴散らしつつ黙々と進めていた。
外も暗くなってきて、ゲームにも飽きてきた頃に俊介は帰り支度を始める。
今日は家に帰るらしい。
「また明日な。」
といって部屋からおいだ…送り出そうと思ったが俊介の言葉に止められてしまった。
「なあ、智。」
「なに。」
「明日こそ俺はあの教室に絵を描いてやる。だから楽しみに待っとけよ。」
「いや、そんなことしなくていいから。」
俊介は颯爽と部屋から出て行った。
恐らく最後の僕の台詞なんて聞いちゃいないだろう。
激しく嫌な予感がしたが気のせいだと思い込むことにした。
わざわざ僕にあんなことを言った場合やつは必ず何かをやらかすのだ。
ただ、今は何もなかったことにして平穏を謳歌した。
うっかり寝坊してしまった。
慌てて学校へ走る。
完璧に遅刻だった。
学校に付いた頃にはすでに1限目が始まって20分は経過した頃だ。
こんな大遅刻は滅多にしない。
ため息をつきつつ、教室に向かう。
階段を上りきり、所定の階で廊下を進めばなにやら人だかりが出来ていた。
何事かと思って近づけばどうやら僕のクラスらしい。
また嫌な予感がした。
早足で教室の前まで言って窓から中を覗き見て絶句した。
教室中まっ白だったのだ。
ふわふわした何かが床を覆い、最初は恐らく何か書かれていたのだろう黒板にはそれが垂れてただの線となって下に伸びていた。
あたりには甘い匂いがたちこめている。
こんなことをするのはあいつしかいないと誰もが囁いていた。
僕もそう思う。
というかそうとしか思えない。
困惑気味の生徒を押しのけて教室に踏み込んだ。
ふわふわした物体は抵抗もなく僕の靴を飲み込んで覆う。
この白いものは恐らく生クリームと見て間違いない。
だってあいつは甘いものが好きだから。
靴をクリームまみれにしながら自分の机の前まで行った。
僕の机は何故かデコレーションされていた。
四角い巨大なショートケーキを思わせるものに変貌した僕の机。
器用だと妙に関心できるくらいの形はしていたが、そんなことにかまう余裕はない。
僕の私物はクリームまみれになり大よそ使えそうなものなど残っていなかった。
唖然としている僕の横に何者かが立つ。
「おー、智。よく出来てるだろ?」
嬉しそうにそうのたまった俊介は満足そうな顔をしている。
一瞬芽生えたものはなんだったのか。
後に人はそれを殺意と呼んだが僕はそれに気づかない振りをした。
でなければ3回はこいつを殺らないと気が済まない。
「一応聞くけどどうしてこんなことを?」
米神が痙攣するのを抑えつつ質問する。
「やるといったら何が何でもやる男。それが俺、湯佐俊介なのです!」
プチンと何かが切れる音がした。
恐らく僕にしか聞こえていまい。
「こっの、アホかー!!」
右ストレートを下あごにお見舞いする。
俊介はあっけなく大好きなクリームの海に沈んでいった。
僕は足でクリームを蹴りながら俊介を埋めてやった。
これ以降俊介の姿を見たものは居なかった…となったら僕は楽になれるだろう。