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あさっての恋愛

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 恋愛とは何であるか。母なら真面目に人生とか言うだろうか。ぼくはいったい何をしたいのだろう。例えばこうして大学の構内を歩くだけでもカップルの姿がいくつか見えて、大体みんな幸せそうだ。ぼくは単純だから、単純にああいうふうになれたらいいなと思った。それだけだった。
 噴水の前の日当たりの良いベンチに天神は座っていて、それ以外何もしていない。その後頭部を眺めて最初の質問を頭の中で確認してから、ぼくは隣に座った。
「いったい何の用?」
「天神の下の名前ってなんだっけ」
「え、そんなこと聞くためにわざわざ呼び出したの?」
「聞きたいことは他にもいくつかあるんだ」
「例えば?」
「風間のことが好きなのかとか」
「死ね」
 真っ直ぐにぼくを見てそう言った天神は、ふっと視線を外して「ミツキだけど」と呟いた。なんでそこにぼくの妹がでてくるんだと思ったけどよく考えたらこれは最初の質問の回答か。
「へえ、うちの妹と同じ名前だったのか」
「妹さんは確か満月って書くんだったよね。あたしは光り輝くで光輝」
「なんか男っぽい」
「そうそう、名前だけだとよく男だと思われるんだよね」
 だから自分の名前はあまり好きじゃない、と彼女は笑った。
「でも、由来はちょっと気に入ってる」
「由来って?」
「向日葵の花言葉なんだってさ」
「……なんか最近、向日葵との遭遇率が高いなぁ」
「なにそれ」
 本当に、何なんだろう。
 ひまわりが恋の花だから?
「…………愛が藤田のことえらく気に入ってたようだけど」
 沈黙に耐えかねたように天神が口を開く。
「あんたはどうなの? つーか、付き合っちゃえば?」
 苦笑いだった。ぼくは、答えなかった。
「天神、恋って楽しい?」
「どうしてあたしに聞くの」
「ぼくにはいないけど天神にはいるんだろ、好きな人」
 彼女は困ったような顔で深く息を吐いて小さく「殴りたい……」と呟いた。殴られたくないからぼくは黙った。
「藤田って、そういう奴じゃないじゃん。人のこと詮索したりとか。あたしにも誰にも興味なさそうだったじゃん。なのに今日は何なの?」
「そうそれ」
「あ?」
「興味ないっていうのが答えなんだよね」
「答え?」
「そう、ぼくにまともなレンアイができない理由」
 「ああ」と納得した声を出した天神がつまらなそうに言葉を続ける。
「そだね。よくできました」
 その言葉を聞いてその横顔を眺めてぼくは考える。水谷さんのことは怖いままだけど、興味を持たれていると思えば少し嬉しくなる。妹はどうやらぼくのことしか見ていないようで、それはやっぱり不健康なことだ。そしてそれはぼくにも当てはまるのだ。
「楽しくないよ、恋なんて」
 横顔が空を仰ぐ。ショートカットがさらりと流れる。
「あんたにはわかんないだろうけどね。突然寂しくなるのとか、自分が嫌になるのとか、もうどうにでもなれって思うのとか」
「…………」
 天神が立ち上がってぼくの前に立った。見上げるぼくは顔をしかめる。青空が眩しい。
「あんたなんか好きじゃない」
 ゆっくりと彼女は言った。
「全然、好きなんかじゃないんだから」
 逆行のお陰で掴み辛い表情へ「それは残念だ」と言葉を投げかける。
「ぼくはきみを好きになれそうな気がしてきたのに」
 一瞬間ひるんだ天神が、力一杯叫んでから走り去って行った。
「このバカ!」
 取り残されたぼくは、大学生の会話じゃないよなと思って苦笑い。
 こんなのでも妹への土産話になるだろうか。



   終
作品名:あさっての恋愛 作家名:綵花