永遠(とわ)のほとり
第7章 彷徨の果て
「いったい何なんですか!?」
激昂してディアネイラは叫んだが、答える者はひとりもいなかった。部屋の主を完全に無視して、衣装櫃を底までさらったり寝具を剥いだり、したい放題だ。ディアネイラは怯えているミアザの手を、しっかりと握りしめた。
客から席を外すよう言われ、ディアネイラはいったん私室へ戻ることにしたのだった。ミアザが起きる頃合いだから、着替えさせてやろうと思ったのだ。遊女として昼夜問わず客とともに出歩くことが多く、娘と触れ合う時間がなかなかとれない。ノゼアンに任せてもよいのだが、出来る限り自分で娘の世話をしたいとディアネイラは考えていた。
寝ぼけまなこの娘の髪を丁寧に梳いていると、部屋の扉が突然ばたんと開き、武装した兵士たちがどやどやと押し入ってきた。彼らは唖然とする母娘には目もくれず、勝手に部屋を物色し始めたのだった。
物々しい雰囲気に泣きだすミアザをなだめ、ディアネイラは指示を出している司令官らしき男につかつかと歩み寄った。
「ちょっと、今すぐやめさせてください! 何なんですか本当に。いったい何を探しているの。説明してくださいっ」
ディアネイラは猛然と抗議したが、壮年の男はうるさそうに眉をひそめ、ハエでも追っ払うように手を振っただけだった。大声が聞こえて振り向くと、兵士がひとり、床に寝そべるようにして寝台の下を覗き込んでいる。
兵士は奥の方から何かを取り出し、勇んで隊長の元へ飛んできた。兵士が持っているのは、片手でどうにか持てるくらいの大きさの、青い石の塊だった。受け取った隊長は石を左見右見、横目でじろりとディアネイラを睨んだ。
「これは、何だ?」
一瞥し、ディアネイラは皮肉な笑みを浮かべた。
「あら、ご存じありませんの。これはラピス・ラズリですわ。バークトリシュの特産品ではありませんか」
「そのくらいのことは知っておる! 加えて言うとな、未加工の原石は許可を受けた商人か加工する職人以外は所持禁止だ。宝飾品ならともかく、どうして原石を遊女のおまえが持っているのだ」
「私のものではありません!」
ディアネイラは昂然と胸を張り、言い返した。知らないものは知らないのだ。非難される謂われはない。しかし隊長は釈明など最初から聞く気もなかったようだ。意気揚々と、彼は宣言した。
「窃盗および密輸の容疑で貴様を逮捕する!」
作品名:永遠(とわ)のほとり 作家名:彩里美月



