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永遠(とわ)のほとり

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第6章 秘密と嘘


 目覚めたとき、ジムサは自分がどこにいるのかわからなかった。窓の隙間から射し込む光の縞が彫刻の施された黒い柱や梁から垂れる薄絹を浮き立たせている。甘く秘めやかな香の名残が、やるせなく辺りをただよっていた。ジムサは顔を覆い、小さく呻いた。
 ――――そうだ。昨夜はあの気まぐれ殿下に無理やり付き合わされた妓楼に泊まったんだった……。
 ジムサは憮然と溜息をつきながら立ち上がり、窓を開けた。なだれ込むまばゆい陽光に眼を眇める。太陽はすでにかなり高くまで昇っていた。抜けるような青空を見上げ、ジムサは明け方の夢を思い出した。メイシャを連れてサイラム湖へ行く夢だ。
 天空を映す湖面の青。のびやかにどこまでも広がる草原の緑。赤いカラージャの花を手に微笑むメイシャの瞳が、湖の色を吸収したように青みを増して……。
 うっとりと見つめるうち、彼女の少女らしいおっとりと無邪気な顔が、冷やかで凄艶な女の顔に変わっていった。気がつけばそれはディアネイラになっていた。彼女は愁わしげに眉を寄せ、ジムサから顔をそむけるとカラージャの花を湖に向かって投げた。花は空中でばらばらになり、赤い血潮のような花びらが無数に風に舞った。
 湖を見つめたまま凝然と立ち尽くすディアネイラの姿が、舞い散る花びらのなかに見失われてゆく。ジムサは声を嗄らして叫んだ。
 メイシャ、と――――。
 ジムサは中空を睨みながら関節が白くなるほど窓枠を掴んだ。脳裏にこびりついた夢の残像は、どんなに振り払っても亡霊のように頭をもたげてくるのだった。
 ジムサは力なく窓辺に背を預けた。朝の涼しさを残した微風が、窓覆いの薄絹を音もなくそよがせた。
 ――――ともかく、早く隊商宿(キャラバン・サライ)に戻ろう。
 こんなところで足止めを食っている暇などない。すぐにでも北回りで東へ行く隊商(キャラバン)を見つけなければ。そしてサイラムへ帰るのだ。こうしている間にも、メイシャは首を長くして俺の帰りを待ちわびていることだろう。一刻も早く彼女を薄暗い神殿から連れ出したい。
 ジムサは素早く身支度を整えた。ディオドトスに見つかれば、また何やかやと理由をつけて引き止められてしまうに違いない。何かと目をかけてもらったことには感謝しているが、今はお遊びに付き合ってなどいられない。
作品名:永遠(とわ)のほとり 作家名:彩里美月