永遠(とわ)のほとり
第5章 崩壊
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花越しのくちづけを残してジムサが去った後、メイシャはその場に立ち尽くし、懸命に嗚咽をこらえていた。
ふいに背後から冷やかすような口笛が響く。弾かれたように振り向くと、いつからそこにいたのか、エルディク王子が腕を組んで神殿の壁に寄り掛かっていた。彼は薄笑いを浮かべながら身を起こした。
「馬鹿な男だよなぁ。いや、聞き分けがいいと言うべきかな」
「あなたが追い詰めたのではありませんか……!」
悲痛な叫びを受け流し、涼しい顔でエルディクは言い捨てた。
「なに、少し頭を使えばわかったはずだ。ただ単に身を引いておまえを俺に譲ればよかったのさ。そうすればあのまま衛兵勤めが出来たんだ。俺だって何も死人の山を築きたいわけじゃない。ちょっとした身分詐称くらい、黙っていてやってもよかったんだ。おまえが奴と別れて俺と結婚さえすれば、四方八方丸く収まったんだよ。奴も死出の旅路につかずにすんだ。そうじゃないか?」
「近寄らないでください! 私に触れたら巫女長に訴えます。私は正式な巫女になったのですから……!」
馴れ馴れしく手を取ろうとするエルディクから、メイシャは慌てて飛びすさった。
ますます嘲笑に口許をゆがめ、エルディクはわざとらしく肩をすくめた。それでも一応足を止め、腰をかがめて親切ごかしの猫なで声で囁きかける。
「現実的になった方がいいぞ。奴はもう帰って来やしない。きっとファウニに頭の皮を剥がれて杯にされちまうさ。それがわかってて志願したんだ。そんな無謀な奴のことなんか忘れて、ありがたい俺の申し出を受けるべきだ」
「私は、巫女になったのですよ!」
「とっとと辞めりゃあいい。なったばかりで辞めるのは体裁が悪いって言うなら、仕方ない、待っててやるよ。そうだな、三月か、せいぜい半年も勤めりゃ充分だろう」
「ジムサが戻ってくるまでは、何があろうと絶対に辞めません!」
メイシャは語気鋭く撥ねつけた。その剣幕にエルディクは驚いた顔をした。素直な優しい顔だちから、おとなしく、なよやかな性格で、強引に迫れば何とでもなると思っていたのだろう。メイシャは自分でも驚くほど強く言い放った。
「ジムサは必ず生きて帰って来ます。戦功をたて、かつての身分を取り戻して帰ってくるわ。そうしたら私たち、誰に妨げられることもなく一緒になるんだから……!」
作品名:永遠(とわ)のほとり 作家名:彩里美月



