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永遠(とわ)のほとり

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第2章 赤い花の館


 ジムサは眼前にそびえたつ建物を茫然と見上げていた。
 実際は、そびえたつというより佇むといった風情の瀟洒な館なのだが、ジムサの眼には地獄へ続く大門のように見えたのだった。
 それは白い化粧漆喰を施した分厚い干乾し煉瓦の建物だった。前面にヘラス風の円柱を飾りつけ、咲き乱れる花をふんだんに飾った窓辺には葡萄の蔓が涼しげな陰を落としていた。
 なかにいた女たちが人影に気付き、小さく奥行きのある窓から競い合うように顔を突き出して嬌声を上げた。
「いらっしゃァい」
「今なら空いてるわよぉ。寄っていってよ、お兄さぁん」
 それぞれにしなを作り、にこやかに微笑みながら甘ったるい声を投げかける。青ざめたジムサの額を、たらりと冷や汗が流れた。
 それは、絶対に来るまいと思っていた場所。
 カティガラ名物と言われる巨大な色街の一角、とある妓楼の前に彼は硬直して突っ立っているのだった。
 ――どうしてこんなことに……!
 ぎりぎりと奥歯を噛みしめていると、傍らでディオが無頓着に尋ねた。
「どうしたんだ? ジムサ」
 ジムサは答えず、くるりと建物に背を向けた。
「俺は帰ります……っ」
「ああ? 何言ってんだ、おまえ。カティガラに来て女と遊ばないなんて、馬鹿のすることだぞ」
「馬鹿で結構! 言ったでしょう、俺は結婚のために帰郷するんです。こんなところに足を踏み入れたりなんぞしたら、許嫁に顔向けできませんっ」
 脱兎の如く逃げ去ろうとしたジムサの肩をむんずと押さえ込み、ディオは囁いた。
「そう固いこと言うなって。黙ってりゃバレやしないよ。何たって独身最後のお楽しみだ、俺が万事お膳立てしてやるから、なっ」
「だから結構ですってば!」
 必死で抗ったが、彼は着痩せして見えてヘラス伝来のレスリングが得意なだけあって意外に膂力はあるのだ。抵抗むなしくジムサは店内に引きずり込まれた。
 入り口をくぐった途端、待ち構えていた女たちが肌もあらわな衣装で現れて周りを取り囲んだ。どの女も黒く縁取ったつぶらな瞳に媚態を浮かべ、先を争って客の腕を奪いあう。
 逃げ場を失ったジムサがひたすら目を逸らしていると、奥から女将とおぼしき恰幅のいい女がいそいそと走り出てきた。
作品名:永遠(とわ)のほとり 作家名:彩里美月