永遠(とわ)のほとり
epilogue
「……ねぇ、見てよ。綺麗よねぇ」
女将にせがんでラピス・ラズリの指輪を見せてもらった娘が、歓声を上げて他の娘を呼んだ。集まってきた女たちが次々に指輪を受け取っては熱心に眺める。
「素敵! こんなに大きな石だったんだ」
「お姐さん、どうしてだかいつも石を内側に回してたのよねぇ。こんなに大きいとは思わなかったわ」
「見せびらかしてもよかったのにねぇ」
「あっ、そうだ。そういえば今日ねぇ、道でばったり出会ったのよ」
「えっ、誰と?」
「決まってるじゃない、ディアネイラ姐さんよ。あ、今はメイシャだっけ」
「まだカティガラにいたんだ。どこかへ移るようなこと言ってなかった?」
「うん、明日出発するって」
「バクトラへ行くのかな」
「それが、シンドのガダーラだってさ。よくわかんないけど、旦那の仕事だそうよ」
「そうなんだぁ。シンドは遠いよねぇ。峠越えもあるし、盗賊も出るって言うしさ」
「ラピス・ラズリって災難避けだよね? 道に迷わないとか……」
「じゃあ、この石持ってた方がよかったのにね」
「――――いいんだよ。あの子らは、もう迷わないんだから」
背後から歩み寄った女将が、ひょいと指輪を取り上げる。灯したばかりのランプにかざすと、青い色のなかで金色の粒が夜空の星のように輝いた。
「あの子らは永遠(とわ)のほとりで舟に乗ったんだ。行く先がどこであろうとも、辿り着く場所があの子らにとって楽園なのさ」
「なんですか、それ?」
娘のひとりが首を傾げる。
「あんた知らないの?」
「知らないわ。何それ」
「この辺に昔から伝わる伝説よ。ほら、沙漠に大きな涸れ河の跡があるでしょ。あれが夜露でいっぱいになると、不思議な舟が出るんだって。その舟に乗れば桃源郷へ行けるの。そうやって旅立って行った恋人たちの話が、いくつもあるのよ」
「そんなのただの言い伝えでしょ。あんな涸れ河が、夜露なんかでいっぱいになるわけないじゃない」
「だからね、一生添い遂げられる愛しい人と巡り逢うことを『永遠(とわ)のほとりで舟に乗る』って言うの。素敵じゃない?」
「いいなぁ。あたしもそういう人と巡り逢いたーい」
「姐さんを身請けしてった人、ずっと前から恋人同士だったんだってよ」
「いいよねぇ。姐さんも今では貴族の奥様だもん。あの人、王太子殿下の側近なんでしょ。玉の輿だぁ。あたしもあやかりたーい」
作品名:永遠(とわ)のほとり 作家名:彩里美月



