永遠(とわ)のほとり
prologue
『……待っているわ』
涙をこらえ、彼女が囁く。
手を伸ばせば容易に触れられる距離なのに、眼には見えない隔たりがふたりを引き裂いている。
ふたたび戻ってくる日まで、彼女に触れることはできない。
波うつ麦穂色の髪にも。
セレスの絹のように滑らかな頬にも。
カラージャの花のように可憐な、その朱い唇にも……。
紺碧の瞳から今にもこぼれ落ちそうな涙をぬぐってやることすら、今の自分にはできないのだ。
甘い吐息が感じられるほど近く額を寄せ、俯いたまま彼女は囁いた。
『ずっと待っているから。だから、必ず生きて戻って来て……』
そう言って、彼女は艶やかな髪を一束、差し出した。
『……これは私よ。私はいつもあなたのために祈っている。その想いが、きっとあなたを守るから』
その髪は、戦が続くあいだずっと、この懐にあった。
幾度も危機は訪れたが、自分はこうして生き延びることが出来たのだ。
きっと君が祈ってくれたおかげだ。
長い月日が流れ、ようやくいま俺は故郷へ帰ろうとしている。
メイシャ。
君の待つサイラムへ。
青い湖のほとりに咲いた、小さくも美しい城市(まち)。
懐かしい、俺たちの故郷。
もうすぐだ。
もうすぐ会える。
メイシャ――――。
作品名:永遠(とわ)のほとり 作家名:彩里美月



