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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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マ界少年ユーリ!

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第1話 マ界のマの字はオカマのマ5


 魔導産業で栄えたアステア王国。その王都には数多くの魔導ショップが点在する。
 今回ご紹介いたしますのは、魔導ショップ?鴉帽子?!
 三角帽子を被ったいかにも魔女のお姉さんが主人のお店で、魔導の腕前はかなりのものです。中でもクスリの調合に関してはエキスパート、金(・)さえ払えばどんなクスリでも調合してくれます。
 もちろん裏ルートからの仕入れも豊富です♪
 そんな店の常連であるルーファス。
「いらっちゃいませ〜♪」
 童顔の女主人がルーファスとユーリを出迎えてくれた。童顔のクセにカーシャに勝るとも劣らない、スイカップの持ち主だ。
「マリアさんこんにちは」
 ルーファスは軽く挨拶をしてカウンターの前に立った。
「今日はどんなお薬をお求めですかぁ? ルーたんのためにちゃんと胃薬も用意してますよぉ」
「ええっと、じゃあ胃薬をもらおうかな。それとマンドレイクが必要なんですけど」
「少々お待ちくださぁい」
 マリアは後ろの薬箱の中からマンドレイクを探している。
 ユーリはその間に店内を見回した。少し暗めの照明が店内を照らし、どこにでもありそうな内装だった。
 が、ユーリは気づいていた。
 何かが煮え立ったような臭いはいいとして、店の奥から謎の悲鳴が聴こえて来る。それも一つ二つではなく、地獄の釜で煮立つ人間の悲鳴のようだ。
 店の妖しさを感じつつも、クスリのエキスパートだとルーファスに聞いている。ユーリは惚れ薬の調合をしてもらおうか悩んでいた。
 絶対にカーシャは足元を見てくる。あんな人にわざわざ恩を売られることもない。
 マンドレイクを見つけたマリアはそれをカウンターに乗せた。
「まずはマンドレイクね。あとは胃薬を……そうだ、ルーたんそっちの子、もしかして彼女ぉ?」
 マリアの手がルーファスの見えないところで動いている。そんなことにもまったく気づかないルーファス。
「えっ、違いますよ。友達です友達、ユーリっていうんです」
 と、ルーファスがユーリに顔を向けた瞬間、またマリアが何かガソゴソと動いた。
 素っ気無いフリをしながら眼を凝らしていたユーリは、マリアがドクロマークのついているビンを持っていることに気づいた。
 絶対に怪しい!
「な〜んだ、お友達なのねぇ。こんにちわぁユーリたん」
「はい、こんにちは(手元で怪しいことしながら、絶対に表情に出さない。この女できる!)」
 マリアは何気ない顔をしながら、カウンターの下からクスリの小瓶を出した。
「はい、ルーたんの胃薬。またちょっと調合の仕方を変えてみたの、今度こそ効くと思うわぁ」
「前回のも体に合わなかったみたいで、ヒドイ蕁麻疹が出たんだ(いくら新しいのを調合してもらっても効かないんだよね。そんなに僕の胃は弱ってるのかなぁ)」
「ごめんなちゃぁ〜い、今度こそ大丈夫だからわたしを信じてっ!」
 輝く笑顔でルーファスを攻撃。
 この攻撃にいつも負けてしまうルーファス。
 胃薬とマンドレイクのお金をルーファスはカウンターに置いた。もちろんマンドレイク代は立替である。月末はいつもサイフが泣いている。
 ルーファスは紙袋を受け取り、笑顔でユーリに顔を向けた。
「さっ、行こうか?」
「ちょっと先に出ていてくれますか、マリアさんに個人的に頼みたい商品があるので」
「うん、いいよ。すぐ外で待ってるから早くしてね」
 ルーファスが店を出て行き、残されたのはユーリとマリアだけ。
 白い目をしながらユーリはカウンターに詰め寄った。
「マリアさん、あなたルーファスを毒薬の実験台にしてるでしょう?(絶対こんな人に惚れ薬の調合なんて頼まない)」
「うふふ、そんなわけないですよぉ。ルーたんはウチの大事なお得意サマですものぉ(……この女鋭いわね、へっぽこのルーファスとは大違いだわ)」
 はい、マリアたんの裏の顔が見れましたね!
 互いに分厚い仮面を被った者同士の戦いがはじまろうとしていた。
 ユーリはマリアが隠そうとしていたドクロマークのビンを取り上げようとした。
「これ渡しなさい!」
「泥棒行為ですよぉ、早く手を離してくださぁい」
「あんまり強情だと法的手段に出ますよ」
「だったらこっちも営業妨害で訴えますよぉ(摘発の修羅場なんていくらでも掻い潜って来たんだから、こんな小娘になんかに負けるわけないわ)」
 魔導ショップ鴉帽子の主人が、クスリの中でもポイズンエキスパートだということを、この店を利用する者なら誰でも知っている。ルーファス以外は。
 これまでなんども禁止毒薬を扱っていたとして、摘発されそうになってきたが、こうやって営業しているということは、うまく切り抜けてきたということだ。
 だが、ユーリだって負けてはない。
「我が家には絶対負けなしの専属弁護士団がいますが?」
「どこのお嬢さんか知らないけどぉ、そんなハッタリ信じないもん」
「オーデンブルグ財閥ですが何か?」
「えっ?」
 驚いた顔をした瞬間、マリアの手から力が抜け、クスリの瓶が床に向かって落下した。
 すぐにユーリがカウンターから身を乗り出して掴もうとするが――ガシャーン!
 証拠物件Aが木っ端微塵になった。
 マリアが微笑んだ。
「割れちゃいましたねぇ。損害賠償してくださいねぇ(勝ったわ!)」
「もしかして勝ったおつもりですか?(損害賠償なんか絶対してやるか)インターネットにあることないこと書き込みますよ。たとえそれがウソだとしても、騒ぎになれば風評被害に発展しますけど?」
 どこまでも黒いユーリだが、ここで急にマリアが態度を変えた。
「お友達になりませんかぁ?」
「それって和解の申し立てですか?(急にどうしたんだろう……なにか裏があるのかな)」
「あなたが本当にオーデンブルグのお嬢さんなら、お友達になりたいなぁって。だめかしらぁん?(取引ルートの開拓として、オーデンブルグ財閥は最高だものね)」
「アタシがオーデンブルグ家の者だと証明するものを、今は持ち合わせていませんが、それいいなら和解に応じますが?」
「いいわ、お友達になりましょう。これから商売のほうでも仲良くしましょうねぇ」
 差し出されたマリアの手に握手する寸前でユーリは手を止めた。
「では和解の印にマンドレイクの料金を返してください」
「……お金にがめついわね」
「だからウチは大金持ちなんです。あ、でも胃薬代は別にいりませんよ、あれはルーファスの買い物ですから」
 と、言ってユーリはニッコリ笑った。