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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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マ界少年ユーリ!

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第1話 マ界のマの字はオカマのマ1


 人間が住んでいるガイアには魔導三大国が存在する。
 ガイア聖教の総本山がある聖都アーク、蛇神レザービトゥルドの伝説が有名な古都メミス、そして近年になって三番手に躍り出たのが魔導産業国アステアだ。
 白銀の羽毛に包まれた優雅な翼を広げ、ホワイトドラゴン?ヴァッファート?が地平線まで伸びるシーマス運河の上空を飛空していた。
 丘の上に聳え建つアステア城が見下ろす王都アステア。
 ヴァッファートの羽根が、市場で活気付く中央広場に舞い落ちた。
 広場の前に建てられた天突くシルヴィーノ大聖堂を一周し、ヴァッファートは石畳が敷き詰められたメインロードの上空を優雅に舞った。
 魔導産業国と名高い王都アステアは治安もよく、裕福な階層が多く住み、魔導関係の仕事についている者も多い。
 中央広場近くは石造りの家が主流で、三角屋根を乗せた三、四階の建物が目に付く。
 ヴァッファートが東居住区に翼をはためかせると、庭付きの平屋や二階建ての建物が多く見られるようになる。
 町を一周したヴァッファートは、グラーシュ山脈の奥深くにある住処へと戻って行った。
 その途中、舞い落ちた羽根がとある若者の手に乗った。
「あれぇ、雪かなぁ」
 魔導衣(まどうい)を着た若者は、グルグル眼鏡の奥から青空を見上げ、不思議な顔をしてからクラウス魔導学院に入って行った。
 クラウス魔導学院はアステア王国が世界に誇る魔導学校だ。
 在籍期間は六年間、人間がストレートで入学卒業できたら、だいたい十二歳〜十八歳の年齢となる。が、外国からの留学生や、人間以外の種族も在籍しているために、年齢の幅は多岐に渡っている。
 今日も学院はいつもと変わらず、生徒の悲鳴や爆発音、廊下で攻撃魔法をぶっ放すアホ教師の姿が見受けられた。
 そんなこんなであっという間に放課後になり、ルーファスは追試のために召喚実習室に呼び出されていた。
「ルーファス、遅いぞ!」
 黒魔導教員ファウストの一喝がいきなり飛んできた。ネチっこい声がいつまでの耳に残る。
「ごめんなさぁ〜い、ファウスト先生ぇ(カーシャがいきなりホワイトブレスなんか撃つんだもん)」
 謝りながらルーファスは一本に束ねた長髪頭を掻いた。灰色がかったアイボリーの髪の間から壁の破片が落ちた。どうやら何かの爆発に巻き込まれたらしい。
 ため息を漏らしたファウストは、魔導具がジャラジャラ付いた身体を翻し、気を取り直して実習室の奥に入って行った。
 これから行う追試は悪魔の召喚だ。決められた悪魔を召喚して、使役することができれば合格となる。
 慣れた手つきでルーファスは準備を終え、あとは呪文を唱えるだけとなった。とてもスムーズで、追試を受けている者とは思えない手際の良さだ。
 ファウストは腕組みをしながら厳しい顔で見守っている。
「もういい加減、魔導書を見ずとも呪文を覚えただろう?(これで何度目の追試だったか……)」
「いいえ、あのぉ、魔導書見ながらやります」
「……よかろう(こんな出来の悪い生徒がなぜ入学できたのだ? ルーファスもかれこれ四年生か、よく退学にならずにもったものだ)」
 ファウストは長い前髪を掻き上げながら頭を抱えた。
 お香を焚いたルーファスは魔法陣の前に立ち、グルグル眼鏡を魔導書にくっつけながら、絶対に一字一句間違えないように詠みはじめた。
「コホン、ええっと……(この文字なんて読むんだったっけ?)」
 しょっぱなから行き詰るルーファス。先が思いやられる。
 それでもなんとか、最後の一句まで無事に詠み終わり、気合を入れてルーファスが叫ぶ。
「――出でよ、インぶはっ!?」
 鼻血ブー!
 突如、魔法陣から飛び出した影に膝蹴りを喰らい、ルーファスは鼻血ブーしながら転倒した。
 仰向けに倒れたルーファスの視線に入る美脚。その上には可愛らしい女の子(ルーファス主観)の顔があった。
 謎の女の子は慌てた様子でルーファスの鼻血をハンカチで拭いた。
「大丈夫ですかぁ、ごめんなぁい。損害賠償はさせていただきますから、あとでウチの執事と話し合ってくださぁい(ったく、なんで〈ゲート〉を出た途端に人とぶつかんなきゃいけないわけ)」
 ブリッコな言動と裏腹の心の声――ユーリだった。
 すべてを見ていたファウストは眉間にシワを寄せている。
「ルーファス、失敗だ。これで何度の目の追試だと思っているのだ!」
「ご、ごごごごご、ごめんなさぁ〜い」
 ルーファスは瞬時に正座して心の底から謝った。
 この状況を観察していたユーリはすぐに事情を飲み込んだ。
「(オーデンブルグ家の家訓その一――恩は売れるだけ売っとけ)あのぉ、追試試験に失敗したのはこの人のせいじゃないんですぅ、アタシのせいなんですぅ」
 ユーリはキラキラな瞳でファウストに直談判した。
 上目遣いで見つめるなんちゃって美少女を前に、ファウストは顔色一つ変えなかった。
「私に媚を売っても無駄だぞ。正当な理由があるのならば聞くが、それ以外ならば即却下だ」
 ユーリは輝く瞳攻撃をなかったことにして、真面目な優等生の顔を作った。
「実はわたくし、悪い奴らに追われておりまして、その途中でたまたま〈ゲート〉の歪みを見つけ、本来召喚されるはずだった者の横は入りをさせていただき、ワームホールに飛び込んだところ、こちらへ出てしまったわけです(ウソだけど)」
 ウソかよ!
 その話を聞いたルーファスの眼鏡レンズが輝いた。
「ファウスト先生聞きました? これって前回と前々回の追試と同じパターンですよね。僕に過失がないなら、これって無効ですよね、ね、ね?」
「うむ、たしかにビビの一件と同じだが、さすがに何度も見逃すわけにもいくまい」
「そんなぁ、そこをどーにかこーにかなりませんかぁ?(まだ一学期も終わってないのに赤点なんか取れないよぉ)」
 ルーファスは鼻水をすすりながら今にも泣きそうだ。でもファウストは眉間にシワを寄せたまま無言。
 いきなりルーファスの後頭部がわしづかみされ、一気におでこを石床にゴン!
「このへっぽこもこんなに謝ってるんです、許してあげてもらえませんか?」
 無理やりルーファスに土下座させたのはユーリだった。
 もちろん慈善活動でユーリはルーファスを助けてるんじゃない。
 ――恩は売れるだけ売っとけ!
 そして、ユーリはこの世界で、とにかくなんでもいいから、さっさとコネクションを作るつもりだった。なんでもよくなきゃ、こんな情けないルーファスなんか眼中にない。
 実はユーリ、魔界ハーデスに居づらくなって逃亡して来たのだ。その理由とは、元彼に男だって学校中にバラされ、ネットの匿名掲示板にまで書かれてしまった。もうユーリちゃん絶望だった。
 バラされる前に金で解決しようともしたが、元彼の意思は頑固オヤジのように固く、最後は暗殺まで目論んだがすべて失敗。そこでユーリは一つ大きなことを学んだのだった。
 ――世の中、金の力でもどうにもならないことってあるのね、テヘッ♪
 そんなわけで、コッチの世界に知り合いゼロ、これから行く宛もないユーリは、誰かの助けを借りなきゃ生きていけないのだ。温室育ちだから。
 ユーリはルーファスの頭を持ち上げ、もういっちょ床にゴン!