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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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マ界少年ユーリ!

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第1話 マ界のマの字はオカマのマ6


 マリアにマンドレイクの料金を返してもらい、店の外に出たところでユーリは小さくガッツポーズをした。
「(よし、お金ゲット。やっと無一文から脱出できた)」
 すぐにルーファスが近寄ってきて声をかけてくる。
「遅かったね、なに買ってたの?(なんかものすごく機嫌よさそうな顔してるけど)」
「ううん、別にたいしたものじゃありませんから」
 もちろんお金をルーファスに返す気ゼロです!
 用事を済ませた二人が帰ろうと歩いていると、誰か若者の声が呼び止めた。
「お二人に話がある」
 振り向くと、そこには頭からすっぽりとフードを被った、ローブ姿の男が立っていた。見える素肌は影になっている顔くらいだ。そこから見える顔はだいぶ若いように見えた。
 ユーリは不信感を抱きながらも男の話を聞くことにした。
「アタシたちに何の用でしょうか?(若い男……人間だったらアタシと同い年くらいかも。それにしては声が大人びてるけど)」
「俺の名前はジャド・ジャビド。そこにいるルーファスさんと同じ魔導学院に通う二年生だ。今日は特別大放出キャンペーンでお二人にいい話を持ってきた」
 フレーズがいかにも怪しかった。
 でもルーファスはエサに食いついた。
「いい話ってなに?(特別大放出キャンペーンだって、年末の売り尽くしセールみたいでドキドキする)」
「?ロロアの林檎?を採りに行くと噂を耳にした。あそこは危険だ、俺を雇わないか?」
 売り尽くしセールじゃなくて、ただの売り込みだった。
 ユーリはルーファスの顔をまじまじ見つめた。たしかにコレでは不安だ。
 もしも本当に危険な場所で、モンスターがわんさかじゃんじゃか出るとしたら、はっきり言って死に行くようなものである。
 本当は凄腕の傭兵を雇いたいところだが、今のユーリは小銭しか持ち合わせていなかった。きっと目の前のジャドすら雇えない。
 それにまだジャドの実力を見ていない。本人の話だと魔導学院の二年生だ。実力なんてたかが知れているように感じる。
 疑いの目を向けられていることに気づいたジャドは猛烈な売込みを開始した。
「俺の家は代々暗殺一家だ。俺も幼いころから戦う術を叩き込まれ、どんな武器でも扱うことができる。俺の剣捌きにかかれば、みじん切り、短冊切り、大根のかつら剥きもたやすいことだ。米にだって絵を描ける器用さだ、どうだ俺を雇わないか?」
 語れば語るほど怪しかった。
 呆れてユーリは背を向けて歩き出した。
「行きましょう、時間の無駄でした(こんなバカ誰が雇うんだろ)」
「ま、待て!」
 後ろから呼び止める声にユーリが振り向くと、そこには誰もいなかった。
「こっちだ」
 驚いた顔してユーリが前を見ると、後ろにいたハズのジャドが立っていた。
「いつアタシの前に?」
「俺の家は暗殺一家で――」
「そこは聞いたから」
「小さいころから新聞配達で足は鍛えている。俺は風よりも早く走ることができる。どうだ、今なら二五パーセントオフで雇われてやろう」
 一瞬にしてユーリの前に立ったことは実力として評価できるが、売り込みの仕方が怪しすぎ。
 どーせお金もないし、ユーリはやっぱり断ることにした。
「貴方の実力もよくわかりませんし、今回は断らせていただきます。では、ごきげんよう」
 ユーリはルーファスの腕を引っ張って歩き出そうとした。
 だが、再びジャドが引き止めようとする。
「ふっ、まあいいだろう。今回はお試しキャンペーン実施中ということで、一回だけピンチのときに無料で助けてやろう」
 と、言って、ジャドはルーファスに円盤を投げ渡した。
 手のひらに乗るほどの小さな円盤には、魔法陣が描き込まれていたが、何に使う物なのかまったくわからない。
「その魔法陣の真ん中についている赤いボタンを押せ。そうすれば俺が瞬時に召喚される仕様だ。宅配ピザより手軽で早いぞ。では、さらばだ!」
 ジャドが一瞬にして消えて――現れた。
「いきなりボタン押すなよ!」
 ジャドはルーファスの胸倉を掴んだ。
「ほら、こーゆーボタンって無償に押したくなっちゃうだろ」
「ったく、へっぽことは聞いていたが……まあいい、今のはサービスにしてやろう。次は興味本位で押すなよ、さらばだ!」
 今度こそ本当にジャドが消えた。
 驚くルーファスの横で、ユーリは呆れ返っていた。
「一瞬で消えたのはスゴイけど……なにこの紙ふぶきと紙テープ(白いハトも飛んでいったような気がしたけど)」
 マジシャン仕様だった。
 謎の押し売り用心棒ジャドとの出会いもあったりしながら、ユーリたちはやっとカーシャの元へ戻ることにした。