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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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マ界少年ユーリ!

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プロローグ


 魔界ハーデスのとある学園の裏にあるから、その名も裏山!
 山そのものは何の変哲もない大盛りの土に、樹木をブッ刺しただけの場所だが、この場所にはご近所さんでも有名なものがある。
 ――一本杉だ。
 山頂にある一本杉は、生き字引のウメさん(年齢不詳)の話では、ふる〜くからこの場所にあるらしく、樹齢は数万年とも云われているが、ぶっちゃけ樹齢なんてどーでもいい。むしろウメさんもどうでもいい。
 重要なことはとは何か!
 実はこの一本杉にはとある伝説があるのだ……。
 一本杉の真下で彼女を待っている男子生徒。
 しばらくして、小柄な影が制服のスカートをヒラヒラさせながら、ヒラヒラ手を振って現れた。
「待った?」
 セミロングが似合う、ちょっぴりボーイッシュな彼女。
 ユーリは彼の自慢の彼女で、彼女を連れて歩いていると、いつも周りから嫉妬され、たまに怨恨で殺されかけたりする。それでも彼はユーリを手放さない。まるで?恋の魔法?にかかったように、ユーリ命なのだ。
「ぜんぜん待ってないよ(本当は一時間も待ってたけど)」
 ウソをつきながら、彼氏は下を向いていた顔を勢いよく上げた。
 次の瞬間、彼氏の鼻水ビロ〜ン♪
 ベチョ!
 見事、ユーリの制服にヒット。ユーリのスカートに白濁した液体がっ!
 彼氏はアゴを外してフリーズした。
 ユーリは八重歯を覗かせ満面の笑みを浮かべている。
「あはは、別に怒らないから(マジ死ね!)」
 ユーリは笑顔で彼氏の顔面にグーパンチ!
 言葉とは裏腹に思いっきり怒っていた。
 殴られた彼氏は怒りもせず、すぐにユーリのご機嫌を取ろうとする。
「ごめんユーリ、ここスギ花粉がスゴくてさ。すぐに拭くからごめんなぁ」
 彼氏は必死になってワイシャツの袖でユーリのスカートを拭いた。
 だが、ユーリのこめかみがピキッと音を鳴らす。
「大事な制服に鼻血つけないでくれる?(マジ死ね!)」
 笑顔でユーリは彼氏の腹を蹴り上げた。
 腹を押さえて地面を転がる彼氏の姿。悶絶しながら死相を浮かべている。
 そんな彼氏を上から目線で見るユーリ。
「別にアンタなんかもういらない。これで終わりにしましょう」
 ――これで終わりにしましょう?
 その言葉を理解するまで彼氏は時間がかかった。実際は数秒であったが、彼にとっては母をたずねて三千里くらいあったのだ。
「ど、どういうことだよ、俺のこと嫌いになったのかよ!(絶対ユーリと別れたくない、死んでも別れるもんか)」
「嫌いになったんじゃないの、好きじゃなかったって気づいたの(まあ、どーせノリで付き合ってただけだし)」
「俺はお前のことが好きだ。今まで以上に尽くすから捨てないでくれよ!」
「……ウザッ」
 本心ポロリ。
 下等生物を見るような目つきでユーリは冷笑を浮かべていた。
 彼氏の中で何かが音を立てて壊れた。
 たった一言のキーワード。それは決して言ってはいけない禁断の呪文だった。
 ユーリはトラウマを踏んでしまったのだ!
 彼氏は衝動的な犯行に駆られ、あざ笑っているユーリに飛び掛った。
「お前なんか、お前なんかな!」
 ユーリの身体を押し倒して馬乗りになり、今までの怨みを込めてユーリの細い首を絞めた。
 このまま二時間サスペンスの序章となってしまうのかっ!?
 苦しさで顔を歪めるユーリは足を蹴り上げた。
「死ね!」
 股間を直撃♪
「ぎゃぁぁぁっ!」
 ホラー映画顔負けの悲鳴を上げて、彼氏は股間を押さえたまま後退りをした。
 痛烈な顔の表情と花粉症の鼻水が合体して、放送コードギリギリの顔面だ。こんな顔を人に見られたら首吊って死ねる。
 彼氏は首を擦るユーリをビシッとバシッと指差した。
「てめぇみたいなヤツと付き合うヤツなんか誰もいねぇーよ!」
 この彼氏は今まで付き合ってましたが。
 負けじとユーリが言い返す。
「ふん、アタシのキュートな魅力にかかれば誰でもイチコロよ!」
「あーそうだろうよ。言い寄ってくる男はいくらでもいるだろうよ。でもな、てめぇの正体を知って本当に付き合ってくれるヤツなんか誰もいねぇーよ!」
「はいはい、フラれたからって吠えんじゃないの。じゃ、さよなら、制服の賠償請求はあとで執事のセバスちゃんに送らせるから」
 ユーリは背を向けて、ヒラヒラと手を振ってこの場を立ち去ろうとした。
 しかし、彼氏から衝撃の一言がっ!
「てめぇ男(・)だろうがっ!」
 やまびこ効果でその言葉がエコーした。
 男フィーバー
 男だろうが、男だろうが、男だろうが……。
 全身を凍らせて立ち止まったユーリ。ちょっぴり突いたら粉々に砕け散りそうだ。もっとも触れられたくない場所をピンポイント爆撃されたらしい。
 今まで呼吸すら忘れていたユーリが息を吹き返し、滝のように汗を流しながら地面に両手をついた。
「はぁはぁ……」
 呼吸を乱しながら地面と『こんにちは』するユーリの顔面は蒼白だ。
 彼氏は勝ち誇った笑みを浮かべている。いつの間にか形成逆手していた。
「何か言い返したらどうだよ、オ・カ・マちゃん」
 傷に荒塩をたっぷり攻撃だ。
「アタシが……(オカマ……なんかじゃない。身体はちょっぴり間違って生まれてきちゃったけど、アタシは正真正銘の……オ、オカマなのかぁぁぁ〜)」
 ユーリちゃんショック!
 倒れた相手をさらに上から踏みつけるのごとく、彼氏の猛攻撃が開始した。
「別れたいって言うんだったらそれでもいいぜ、学校中にてめぇが男だってバラすからな!(インターネットにも書き込んで、素っ裸の盗撮写真もバラまいてやる)」
 うなだれていたユーリが背を向けながらゆらりと立ち上がった。
 そして、振り向いた顔はブリッ子スマイル!
「ごめんなさぁい、アタシが悪かったぁ……って言うかボケッ!」
 ビシッとユーリは彼氏を指差して叫ぶ。
「ゆけっ、セバスちゃんキーック!」
 必殺技が木霊したと同時に、物陰から燕尾服を来た影が登場。彼氏の顔面目掛けてキーック!
 彼氏とセバスちゃんは仲良く揃って崖の下に転落した♪
 もはやユーリは崖の下すら覗く気ゼロ。
「……死んだな。よし、アタシは何も見てない、何もしてない、ここにすら来なかった。さーってと、偽装工作しなくっちゃ!」
 一本杉の伝説――ここで別れ話したカップルは絶対に破局できる。不幸になる特典つき。