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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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リューク国立病院の怪異3


 ベッドの上でルーファスはハッと目を覚ました。
 辺りを見渡すと、自分の病室だった。窓の外はいい天気らしく、空が青く輝いている。
 足は昨日と同じで吊り下げられ固定されている。
 まるで病室から一歩も出てませんよ的な現状だった。
 まさか、昨晩の出来事は全て夢だったのか?
 トイレのベンジョンソンさんとの交流も夢だったの?
 そうだ、あんな故障中ばっかりのトイレなんて、あまりにも出来すぎな展開だ。
 やっぱりオバケなんているわけないんだ。
 ほっとため息をつくルーファス。
 ベッドでルーファスが寛いでいると、コンコンと規則正しい音色を奏で、空色の声が室内に流れ込んできた。
「お邪魔するよ、へっぽこくん(ふあふあ)」
 ローゼンクロイツだった。
「あっ、ローゼンクロイツ。今日も来てくれたんだ」
「今日も来たらしいね(ふにふに)」
 らしいってなんだよ。自分のことなのに疑問系。
 ローゼンクロイツはツカツカと歩いて、椅子にちょこんと座った。今日はフルーツの盛り合わせはないらしい。
「ルーファス、これあげる(ふあふあ)」
 フルーツ盛り合わせの代わりにローゼンクロイツが持ってきたのは、一冊のノートだった。
「なにこれ?」
 ノートを受け取ったルーファスは、パラパラっとページを開いて中身を確認した。
 中には印刷されたような綺麗な文字が書かれていた。芸術的な美しい図解や図形も描かれている。これは授業ノートだった。
「もしかして僕の代わりに?(ローゼンクロイツもいいとこあるなぁ)」
「たまにはキミに恩を売っておくのもいいと思っただけさ(ふっ)」
 腹黒いぞローゼンクロイツ!
 ローゼンクロイツは一瞬だけ口をニヤリとさせ、すぐに無表情に戻った。
「ところでルーファス(ふあふあ)」
「なに?(話の切り替え早いよ)」
「さっきロビーで立ち聞きしたんだけど、昨晩この病院にオバケが出たらしいよ(ふあふあ)」
「えっ!?」
 目をまん丸にしてルーファスはドキッとした。
 まさかベンジョンソンさん!?
「あのね、廊下を這う蜘蛛男が出たってさ(ふにふに)」
「はぁ?」
「深夜の廊下を這う蜘蛛男だよ(ふあふあ)。悲鳴も聴こえたらしいよ(ふあふあ)」
「はぁ?」
 ベンジョンソンさん意外にも、この病院にはオバケが棲み憑いているのだろうか?
 実は、蜘蛛男の正体は匍匐前進をしていたルーファスだったりするのだが、そんなことなど彼は思いもしなかった。
 つまり、昨晩の出来事は夢ではなかったのだ。
 ローゼンクロイツは椅子から立ち上がって背を見せた。
「帰るね(ふあふあ)」
「もう?」
「じゃ(ふあふあ)」
 肩越しに手をひらひらと振って、ローゼンクロイツは病室を出て行った。
 じゃなくって。
「ちょっと待ってローゼンクロイツ!」
「なに?(ふに)」
 不思議そうな顔を作ってローゼンクロイツは振り返った。完全に作った大げさな表情だ。
「ノートはありがたいんだけど、今日の授業は?」
「なんだい、今日のノートも請求するのかい?(ふにふに) 図々しいよルーファス(ふにー)」
「そうじゃなくって、今日学校は?」
「サボったに決まってるじゃないか(ふあふあ)」
 サラッと言った。
「新年度はじまったばかりなのにサボリ? 今年の進級も暫定扱いなんだろ?」
「その問題なら解決したよ(ふにふに)」
「どうやって?(学院長の差し金かな)」
「魔女と取引した(ふあふあ)」
 魔女とはカーシャのことである。
 去年度の出席日数が足らなかったローゼンクロイツは、マスタードラゴンの鱗をカーシャに渡すことで出席人数を改ざんしてもらったのだ。
 用事も済んで今度こそローゼンクロイツは去っていった。それと入れ替わるようにノックが聴こえ、黒衣の男が入ってきた。
「ルーファス君、怪我の具合はどうかね?」
 今日も妖しい目つきでルーファスを見るディーだった。
 ルーファスしばし無言。
「(もしかしたら昨日よりも悪化してるなんてことは口にできないから)今日にも退院できるんじゃないかなー」
「それは私が決めることだ」
「(あっそ)だよね、でも明日には退院だよね?」
「さて、それは明日になってみないとわからんな(どのような理由で病院に引きとめようか……?)」
 一刻も早く退院したい患者と、なるべく長く引き止めたい医者。早く退院したいのは患者の当然の心理で、引き止めたいのは悪徳医師であれば、治療代を多く請求するよくある方法だ。けれど、この二人の場合は動悸が通常と異なる。
 今もルーファスを色目で見ているディーと、見られていることに怯えるルーファス。その辺りが二人の動悸だ。
「ルーファス君、困ったことがあったら、いつでも私に相談してくれたまえ」
 と、ディーの顔が近づき、逃げようにも動けないルーファス。
「(ちょっと近づきすぎ)ええっと、それでしたら早急にナースコールを直して欲しいかなぁって」
「ナースコールがどうかしたのかい?」
「不思議なことにコールボタンの線が切れちゃって」
 不思議なことを言いつつも、実はちゃんとビビがやったことを知っているルーファス。
「ふむ、どのコードが切れているのかね?」
 ルーファスに覆いかぶさるようにディーは身を乗り出した。
 少し回り込めばいいものを、わざとルーファスに覆いかぶさり、コールボタンを調べる。
 ディーとルーファスの胸板が密着。
 不可抗力でドキドキしているルーファスの心音に対して、ディーの心臓は動いていないように静かだった。
 はたから見ると、ディーが患者をベッドに押し倒しているような光景の中、ノックもされずに病室のドアが勢いよく開かれた。
「ルーちゃん、お見舞いに来たよぉ〜ん!」
 部屋に飛び込んできたビビを見て、瞬時にディーはルーファスから退いた。
「また君かね」
 ディーの瞳はビビを蔑む眼つきで見ている。完全に邪魔者扱いだ。けれど、目では訴えてもそれを口に出すことはなかった。
 ディーはビビの横を通り抜け病室を出ようとした。
「それではルーファス君、また後で……(また邪魔が入ったな)」
 二人っきりの部屋で、ビビはルーファスを汚い物でも見るような目で見ている。
「ルーちゃん……不潔」
「ふっ、不潔ってなに?(なんか勘違いされてるっぽいなぁ)」
「あのヒトとどんなカンケイなの?」
「だから、ディーとは医者と患者の関係だから(向こうがどう思ってるかは別として)」
「ホントにぃ?」
「ホントだってば!」
 ムキになったのが逆効果で、ビビの瞳イッパイに疑惑が湧いている。
 そして、ビビはそっぽを向いて頬を膨らませた。
「ならいいけど(ルーちゃんがそっち系だったら、アタシ一生トラウマになりそう)」
「(なんで怒られてるんだろう)」
 会話が途切れ、気まずい空気が流れる。
 ルーファスはベッドから降りられないので、この場を逃げることもできない。方やビビは、キッカケを失っていた。
「(このまま部屋出るの気まずいし、でも話す話題がないよぉ……)」
 そんなうちにも、気まずい空気は濃度を増していく。
 こんなとき、誰かが病室に訪れてくれれば……なんてことも起きてくれなかった。
 なにかを思い出したようにビビは手を叩いた。