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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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魔導士ルーファス(1)

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リューク国立病院の怪異2


 その日の深夜。
 トイレでルーファスは目を覚ました。
「(……漏れそう)」
 ダムが決壊する寸前だった。
 冷や汗をかいて顔を青くするルーファスは、すぐさまナースコールをした。
 ――繋がらない。
 ボタンを連打するが、やっぱり繋がらない。
 焦るルーファス。
 ボタンから伸びたコードを引っ張ってみた。すると、なんとコードが切断されているじゃありませんか!
 切断面は鋭利な刃物でスパッと切ったように鮮やかだ。
「……あっ」
 と、呟くルーファス。
「(ビビのせいか)」
 大正解!
 今日の昼間、どっかの誰かさんが大鎌を振りまして、フルーツを細切れの虐殺したせいだった。あのときに、運悪くコールボタンから伸びたコードを切ってしまったのだ。
 ルーファス的大ピンチ!
 脚を無意味に包帯でグルグル巻きにされたルーファスは、ベッドから降りることができない。イコール、トイレに行けない。
 これはピンチだ!
 17歳になってお漏らしなんてできない。
「誰か助けてーっ!」
 とりあえず叫んでみた。
 しかし、声は個室に響いただけ。
 こうなったら治療器具を壊してでもトイレに行くしかない。
 その前にとりあえず吊り下げられた右足を動かしてみる。
 まったく動かない。
 なぜか頑丈に固定され、ビクともしないのだ。
「これって……プチ監禁!?」
 ルーファスの脳裏に浮かぶ黒い医師。
 吊り下げられた脚に手を伸ばそうとするも、身体が硬くて腹筋もないルーファスには届かない。
 やっぱり強引に破壊するしかなさそうだ。
 破壊といっても、そんなたいした物ではなく、脚を吊ってる紐を切れはどうにかなりそうだ。
 風の魔法を得意とするルーファスは、指先から小さなカマイタチを放った。
 スパッと紐切ったことで、吊られていた脚がドスンと落ちる。
「うっ……(痛い)」
 骨折した足に衝撃が加わった。
 ジーンと来る痛みに耐えること数秒。
 フリーズしていたルーファスがやっと起動した。
 ベッドから這い降りて、片足でぴょんぴょん跳ねながら病室を出た。
 深夜の病院は薄暗く、静かでひんやりとしている。
 廊下を照らす薄暗いライトが心もとない。
「夜の病院って怖いなぁ」
 怖いのを紛らしてわざと口に出して言ってみた。
 が、やっぱり怖いものは怖い。
 幽霊は1年中いるが、運が悪いことに今のシーズンは夏。と行きたいところだが秋だったりする。
 それでも心霊スポットは1年中心霊スポットである。
 心霊スポットの定番のひとつと言えば病院。
 病気や事故で無念を抱き死んだ者たちの霊が……。
「……絶対いない」
 ルーファス真っ向否定。
 ここで公定してしまったら、怖くてトイレに行けない。
 負けるなルーファス!
 勇気を振り絞ってトイレに向かうルーファス。
 が、その足はなかなか進まない。
 なぜならば、トイレにはオバケが出るから!
 やっぱりオバケが怖いルーファス。
 いつの時代も怖い話は子供たちの間でブームになるものである。ルーファスが魔導学園に通っていた頃も、そんな話がブームになったことがあった。
 その中にはトイレにまつわる怖い話がいくつかあった。
 トイレの中から手が出てきて引きずりこまれるとか、トイレが詰まって逆噴射するある意味怖い話だとか、とにかくいろいろな話があった。
 そんなトイレにまつわる怖い話の中で、マスコットキャラ的な幽霊が『トイレのベンジョンソン』だ。各地方によって伝わり方はいろいろだが、見た目はだいだい統一している。
 ベンジョンソンさんの主な特徴は、アフロへアーで犬みたいな顔をしていると言う点だ。一説には犬憑きの人間の霊だとも言われるが確証はない。
 トイレに出没するベンジョンソンさんはどんなことをするかというと、トイレットペーパーの切れた人に紙を渡してくれるのだ。だだし、1ロールにつき、財布から勝手に10ラウルがなくなる。
 そして、もし10ラウルを持っていなかったら……。
 ブルブルとルーファスは身体を振るわせた。
 ヤバイ、トイレに行きたくなくなってきちゃった。
 むしろ行けない。
 行きたくない。
 逝くもんか。
 しかし、股間のダムは決壊寸前だ。このまま放流するわけにはいかない。
 よし!
 っとルーファスは拳を握って気合を入れた。
「大丈夫、トイレにいるのは妖精さんだけだ、オバケなんていないよね」
 きっとトイレにはフローラルな妖精さんがいるだけだ。
 ルーファスはぴょんぴょん跳ねながらトイレに向かった。
 自分が跳ねる足音が静かな廊下に木霊する。それが怖くてたまらない。もしも、自分以外の足音が……と考えると身の毛もよだつ思いだ。
 そこでルーファスは両耳を手で塞いだ。これで変な足音が迫ってきても聴こえない。
「迫ってきたとき聴こえなきゃ意味ないじゃん」
 セルフツッコミ。
 もしも何者かが迫ってきたのに気付かなければ、逃げることもできないではないか。
 結局、耳は塞いでも塞がなくても怖い。
 怖いものは怖い。
 こうなったらこれしかない。
「(なにか楽しいことを……)」
 普段あまり使わない頭で楽しいことを一生懸命考える。
 考える。
 ……考える。
 …………なにも浮かばない。
 なんて想像力が乏しいんだとルーファスへこむ。
 ブルーな気分になって落ち込んだら、余計に今の状況が怖くなってきた。
 とか思ってるうちに、ついにトイレの前まで来てしまった。
 深夜でもトイレの電気は煌々と輝いていた。これならぜんぜん怖くないかもしれない。
 なんだかルーファスは勇気が湧いてきた。
 すんなりトイレに入ったルーファスは思わず目を剥く。
 なんと不幸なことに男性用トイレ全てに故障中の張り紙あった。
 しかも、個室の方も1箇所を覗いて、ドアに故障中の張り紙が張ってあるじゃありませんか。
 唯一使用可能な個室は某3番目の個室。
 そう、トイレのベンジョンソンさんが出るという個室だ!
「困った(おなか痛くなってきた)」
 恐怖と緊張のあまり腹痛を起こすルーファス。
 ぎゅるるるぅぅぅ。
 お腹が泣く。
 ルーファスに選択の余地はなかった。
 個室に飛び込み、念のためトイレットペーパーを調べる。
「……うそでしょ?」
 紙がない。
 神がない。
 オーマイゴッド!!
 危ないところだった。このまま知らずに用を足していたら、トイレのベンジョンソンさんを召喚するところだった。
 昔からルーファスは召喚と相性が悪い。
 一刻も早くトイレを出……れない!
 閉めた覚えのない鍵が閉まってる。
 ドゴドガドガドゴ!
 必死になってドアを殴る蹴る。
「うッ!(蹴るんじゃなかった)」
 骨折してる足で思わず蹴ってしまった。ドジだ。
 ゴン!
 と、ルーファスはもう一発ドアを殴りつけた。
「なんで紙がなくて、閉じ込められなきゃいけないのさ!」
「紙イリマスカー?」
 蒼ざめた顔でルーファスは辺りを見回す。
「ギャァアアッ!?」
 叫んだルーファスの視線はドアの上にある隙間に向けられていた。なんとそこに黒い手に握られたトイレットペーパーが!?
 しまった……やちゃった。
 召喚しちまった。
 トイレのベンジョンソンさん召喚!