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短編集58(過去作品)

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二重人格の正体



                 二重人格の正体


「お前はあまり目立たないやつだと思っていたのにな」
 井上光弘は、高校時代に友達に言われたことがあった。
 中学時代までは、ほとんど目立つ存在ではなく、どこにでもいるような少年だった。声変わりも中学に入ってからと、成長もそれほど早いわけではなく、どちらかというと、小学生に頃は、近所でも、
「かわいくて、大人しい子ね」
 と言われていた。
 クラスに数人、そんな男の子がいるものだ。目立ちたがり屋の子供を中心に輪ができているが、輪の中には入りたくない。群れを成している中でのその他大勢にはなりたくなかった。それは中学に入ってからも同じだったのだが、そのせいか、いつも一人でいることが多かったのだ。
 一人でいると、結構いろいろ考えたりするものだ。特に小学生の頃などは、テレビやゲームの影響が大きく、アニメの主人公になったような想像をしてみたり、憧れを持ったりしたものだ。そんな毎日だったので、一日はあっという間に過ぎたりしていた。
 想像していても、毎日の生活は平凡なもので、いつも学校に行って、ただ授業を受けているだけで、先生の話を聞いているのか聞いていないのか、気がつけば授業が終わっていることもあった。
 中学に入って、小学生の頃のことを思い出すと、まるでかなり昔のことのように思えてくるのだが、中学に入ってもそれほど変わったわけではない。
 友達がたくさんいるわけでもなく、
――友達って言えるのは何人いるんだろう――
 自分でもよく分からなかった。
 趣味の話をする友達はいた。小学生の頃から友達に誘われて、海釣りに行くことがあったが、井上の唯一の趣味であった。
 趣味というと、どうしても芸術的なことが頭に浮かぶので、他の人には、
「釣りが趣味です」
 などと話したことはない。
「井上は、無趣味だ」
 きっと、皆そう思っているに違いないが。釣りに一緒に行く友達が、一番の親友で、本当の友達というと彼くらいになるのではないだろうか。
 しかし、その友達にはまわりにいつも他の友達がいる。井上にとって彼が一番だと思っているが、彼にとって井上は果たして何番目かということを考えると、少し憂いてしまいそうになる。
 しかし、井上はあまり気にする方ではなかった。それが井上の長所であって、短所でもないだろうか。
――長所と短所は紙一重――
 というが、本当にそうである。
 長所だと思っていると、急に人から指摘されたことで落ち込む結果に陥ることもある。長所を短所でもあるということを意識している人もいるだろうが、むしろ井上は、
「長所は長所、それなりに自信を持っていきたい」
 と感じていた。
 短所を治して平均的な人間になるというのも生き方もあるだろうが、長所を伸ばすことで、短所を補う考え方が。井上には合っていた。無理をするよりも、気持ちに余裕を持ちたいからで、あまりたくさん友達を作らない理由も、無理をしたくないからだと思っていた。
 小学生の頃に、友達に悩みを相談したことがあった。
 悩みと言っても所詮小学生、今から思い出してもどんなことだったか覚えていないくらいだが、数人に相談してみた。
 皆それぞれ意見が違う。当たり前のことだろう。無意識にそれぞれに少しずつ違って伝えていたのかも知れないと思う。相手を見ながら話すのも、井上の悪いくせであった。
 違う意見を返されては、さすがに考えがまとまるわけもない。
「人に意見を求める時は、なるべく自分の意見をしっかりと持っていないと、混乱するばかりだ」
 高校生になって、友達と相談の話をした時に話していたが、もっともなことである。
 悩み相談で頭が混乱してしまっては、もはや人と話すことに臆病になることもいたし方ないことである。
「あいつは暗いやつだ。殻に閉じこもっている」
 と言われていたりしたが、そんな連中に限って、誰かのグループに入っている「その他大勢」の連中である。そんな連中に何を言われても、
――所詮、関係ないさ――
 と感じていればいいことだった。
 自分が一匹狼だとまでは感じたことはないが、少なくとも同じような考え方の人はあまりいないだろうということは感じていた。
「同じような考えの人ばかりでは、面白くないではないか」
 高校に入ってからは口に出して言えるようになったが、中学生の頃までは、じっと心の中に仕舞っておいた深い思いである。
 高校に入ると、人を遠ざけるようになっていた。遠ざけるといっても、すべての人を遠ざけるというわけではない。
 自分と同じ考えの人でないと、会話をしても面白くないし、まず会話にならない。同じような考え方の人であれば、
――これ以上いうと、刺激してしまうことになるので、やめておこう――
 などとある程度のところでセーブすることもできる。しかし、そんな人に限って喧嘩になることはないだろう。相手も同じことを考えていて、お互いに刺激しないようになるからだ。
 会話で意見を戦わせることは嫌いではない。相手に考えさせるように意見は、お互いにいい刺激を生み出すからだ。下手な刺激であれば感情的になるが、いい刺激であれば切磋琢磨に繋がる。感情を刺激するかしないかを理解できる相手でないと、うまく会話が成立しないに違いない。
 中学まで大人しかった井上だが、高校になると、自分の意見を表に出したがるようになったのは、自分を意識している人の存在に気付いたからだ。
 友達というわけではなく、あまり会話をしたことがない。しかし、いつも井上を意識しているようで、見つめられている視線を感じるのだが、決して相手から話しかけてくることはない。何とか気配を消そうとしていて、却って目立ってしまっていることに、本人は気付いていないのだ。
――まるで中学時代までの僕のようだな――
 井上は考えた。
 そういえば、中学までの井上も、目立たない存在で自分から人に話しかける方ではなかったが、なぜか気になる人がいたのだ。
 なぜ気になるのかも分からずに、とにかくその人の挙動をいつも見つめていた。見逃してしまうことがまるで自分の罪であるかのような、まったく理解しがたい理屈を自分の中に持っていた。かといって、四六時中見張っているわけではない。相手に気付かれてしまうことの方が罪深いと思っていたからだ。何とかギリギリのところでの葛藤に最初は戸惑いがあったが、途中からゲーム感覚で楽しんでさえいたように思える。
――相手が気付いているわけはないんだ――
 中学卒業までそう思い込んでいた。彼は中学で受験して私立中学に行ってしまったので、小学生の頃だけの記憶である。さすがに別の中学まで追いかけていくことなどできるはずもなかった。
 小学生の頃、なかなか時間が過ぎなかったわりに、中学時代の三年間はあっという間だった。それもきっと意識する相手がいるかいないかの違いが大きく影響しているのではないだろうか。
――人を意識することで、自分の中の時間的な感覚が変わってしまう――
 ずっと考えていたことである。
 高校に入ると、性格が一変してしまった井上だが、人を意識することを小学生の頃に経験していたから、裏返ってしまった性格に違和感はなかった。
作品名:短編集58(過去作品) 作家名:森本晃次