二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

BYAKUYA-the Withered Lilac-3

INDEX|10ページ/19ページ|

次のページ前のページ
 

Chapter9 真なる月となる空の『器(ストリクス)』


 最強の傭兵、『強欲』の名を持つ『偽誕者』、ゴルドーと接触し、ツクヨミのかつての親友、探抗う深杭、 『二重身』のゾハルとの邂逅から一夜明けた。
 ツクヨミは、病床に伏していた。
 昨晩未明より、発熱と咳があった。ビャクヤの忠告も虚しく、風邪を引いたようだった。
 変わり果てたかつての親友の姿を目にし、そして命を狙われる、といったショッキングな出来事が続き、精神的にも疲弊していたことも原因と思われた。
「ゴホッ! ゴホッ……!」
 ツクヨミは、激しく咳き込む。だんだんと咳は、湿気を帯びたものになってきた。胸に響いて息苦しさすら感じる。
「はあ……はあ……」
 ツクヨミは、口元を覆った手をそのまま額に置いた。
 自分でも恐ろしいまでの熱気を感じた。体温は推定、四十度に迫る勢いだと思われる。これほどまでにひどい風邪をひいたのは、ずいぶん久しぶりな気がした。
 ふと、部屋のドアがノックされた。
 ノックの後、ツクヨミの返事を待たずに、ドアは開けられた。
「調子はどうだい。姉さん?」
「ビャクヤ……」
 買い物の袋をさげ、ビャクヤが部屋へと入ってきた。
「どれどれ……」
 ビャクヤは、買い物袋をテーブルの上に置き、ツクヨミの首に手を触れた。
「あらら。すごい熱……ん?」
 ビャクヤは一瞬、眉根を寄せた。その様子はまるで、触診で何らかの兆候を悟った医師のようだった。
「なに……」
 ツクヨミは、焼けるような喉の痛みを感じつつも、何とか発した。
「ああいや。何でもないよ。それよりほら。薬局で体温計買ってきたからさ。熱を測ろうか」
 ビャクヤはすぐに、いつものような微笑を浮かべた表情に戻り、買い物袋をまさぐり始めた。
 取り出したのは、彼の言う通り体温計であった。しかし、それはあまり馴染みのない形式のものだった。
 ケースとおぼしきものの両端から紐が伸びている。
 ビャクヤはそれを掴み、ケースとその中身の体温計をブンブンと振り回し始めた。
「なに……それ?」
 ツクヨミは思わず訊ねてしまう。
「ええ? 見たらわかるだろう?」
 ビャクヤは、紐を両端にピッ、と引いた。遠心力によって体温計だけがくるくる回る。回転が止むとビャクヤはケースから中身を取り出した。
「ほら。体温計だよ」
 ビャクヤが差し出してきたのは、棒状でガラス張りのものだった。細かく目盛りが刻まれており、その中心には銀色の指標があった。
 今や、医療現場でも姿を消したはずの、水銀式体温計であった。
「なんでこんな昔の……」
 ビャクヤの選択にも思うところがあったが、それよりもむしろ、よくこんなものがまだ市販されていたものだと、ツクヨミは思った。
「知らないのかな? 姉さん。この体温計の方が正確なんだよ。電子体温計なんて邪道だよ。姉さん」
 そこまで言い切るに、電子体温計に恨みでもあるのか、とツクヨミは思う。昨今の技術力で、電子体温計はかなりの精度まで高められている。しかも測定にかかる時間も比例するように減っている。
 しかし、体温計ごときにぐだぐだ言う気力も体力もないため、ツクヨミは黙っていた。
「さて。測ろうか。脇の下……でもいいんだけど。本当は首の方が正確にはかれるんだけど。どうしようか?」
「……脇の下でいいわよ」
「そう? あれ。口の中の方がよかったような……?」
「早く貸してちょうだい……」
 問答しているのが面倒になり、ツクヨミはビャクヤから体温計を取って、すぐに脇に挟んだ。
「ああそうだ。検温には五分かけなきゃダメだよ? ちゃんとした温度がでないからね」
「…………」
「ちょっと姉さん。聞いてる?」
「ゴホッ……聞いているわ。喉が痛いのよ。あまり喋らせないでちょうだい……ゴホッ!」
「おっと。それはごめん。ああほら。『ひんやりんね』も買ってきたから貼りなよ」
 ビャクヤは、『ひんやりんね』なる冷却シートを取り出した。
「……どうもありがとう」
 頭も痛かったため、これはありがたかった。ツクヨミは、保護フィルムを剥がし、額に貼る。
「ほら。もう一枚。これは脇の下に貼るといいよ。今体温計はどっちに……右だね。それじゃ左脇に……」
 ビャクヤは、ツクヨミのシャツの裾に手を伸ばした。
「ちょっと、何してるのよ!?」
 ツクヨミは驚いて、大声をあげる。そしてむせかえった。
「ああもう。そんな声出すから。ほら。『ドレーエンカイザー』だよ。飲みなよ」
 ビャクヤは、袋からペットボトル入りの経口補水液を差し出す。『ドレーエンカイザー』、一口飲むだけで電解質を全身に回すのが信条、というふれこみで有名な一品である。
 ツクヨミは受け取り、口にした。僅かに塩の味がするが、後味はほのかに甘い風味が鼻腔を包んだ。
「ごほ……それくらい自分で貼れるわ。余計なことしないでちょうだい」
「そうかい? おや。そうこうしているうちに。五分たったね。どれ。熱見せてよ」
 ツクヨミは、体温計をビャクヤに渡した。
「どれどれ……」
 体温計の示す温度を見て、ビャクヤはぎょっとした。
「三十九度五分……!? 大変だ! 急いで熱を下げなきゃ! 確かあれも買っといたはず……!」
 ツクヨミの読みは大体当たっていた。それほどの高熱があるのなら、辛いのも当然というものである。むしろ、正確な体温を知ったことで、だるさが増したような気がした。
 しかし、滅多なことでは動じなくなったビャクヤが、ここまで慌てている様子を見たのは久しぶりだった。
 何を考えているのか、普段は分かりにくいものの、この時ばかりは献身的に尽くしてくれている、とツクヨミは思った。
ーーこの子、本当に私のことを心配して……?ーー
 熱でぼんやりしつつも、ツクヨミの心がビャクヤの優しさに揺れかけた。しかし、次の瞬間、その心の揺れは別のものとなる。
「あったあった。これ!」
 ビャクヤは、薬箱を取り出し、箱を開けて中身を取り出した。
 錠剤にしてはずいぶん大きく、小指の先くらいの大きさがある。そして真っ白な楕円形である。
「……っ!? ちょっとそれって……!」
「何って座薬だよ。解熱用のね。さあ。入れるから。下脱いで!」
「ま、待って、何で座薬なのよ!?」
「僕が小さい時からお世話になっている薬屋さんの薦めだからだよ。解熱剤は口からより。直腸からの方が吸収が早いってね。ほら逃げないで姉さん! これ以上熱が上がったら大変だよ!」
 ビャクヤは、布団を払い除け、ツクヨミのシャツを捲り、下着に手をかけた。
「きゃあっ!?」
 ツクヨミは、熱以外の原因で顔を真っ赤にし、ビャクヤの手首を両手で押さえ付けて抵抗を試みる。
「姉さん! 何してるのさ!? その手を離して。事態は一刻を争うんだよ!?」
「わ、分かった! 分かったから、ちょっと待って! せめて自分で……ゴホッ……ゴホッ……うっ!?」
 ツクヨミは胸元に手を当てると、どさっ、とツクヨミはベッドの上に倒れてしまった。
「ちょっと姉さん? こんなときに。何をバカな真似を……姉さん? おーい姉さん! えっ! 本当に気絶してる!?」
 高熱に加え、ビャクヤとの小競り合いで興奮したため、ツクヨミは失神してしまった。
「姉さん! 姉さーん!」
作品名:BYAKUYA-the Withered Lilac-3 作家名:綾田宗