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『掌に絆つないで』第二章

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Act.08 [蔵馬] 2019.6.19更新


木の葉の擦れ合う音と黒鵺の言葉に、蔵馬は眠ることを忘れて聞き入っていた。
700年ぶりに再会した友は、妖狐だった頃の蔵馬の好奇心をつれてくる。暗号を解き、封印を破り、あらゆるものを盗み出していたあの頃。怖いものも知らず、策略もなく、ただひたすらに美しいもの珍しいものをあさっていた。
それはまるで自分たちが生まれ持った使命のようで、何の疑問も彼らを阻むことはなかった。
そして今、黒鵺の口から新たな目的が語られる。
「新しい世界をオレたちのものにしよう」
驚いた様子で黒鵺を見つめる蔵馬に、彼は満足気にひとつ頷いた。
魔界と人間界の中間にある、もうひとつの世界。珍品などではなく、今度は世界そのものを開拓しようと言うのだ。
「魔界にも、人間界にもない、新しいエネルギーを持った世界だ。おもしろそうだろう?」
「ああ、おもしろい……。お前のビッグマウスが健在で」
そういって受け流すと、黒鵺は少し眉を吊り上げた。
「蔵馬。お前、バカにしてるだろう?」
「してないよ」
「本当にあるんだぜ、もうひとつ。今は霊界に封印されてる世界がな」
「……霊界に?」
ふと、蔵馬は真顔になって聞き返す。霊界と聞いて瞬時に思い起こされた出来事があったからだ。
「そうだ、霊界に封じられた世界、『冥界』。存在がほとんど知られてない世界だ」
「ああ、オレも初めて聞く。霊界に封じられているということは、結界があるのか……それには、思い当たることがある」
「さすがだな、知っていたのか」
「ついこの間……な」
迷い人が負っていた火傷と、自分たちの頭上に突如現れた謎の光。もうひとつ、霊界に封じられた世界が人間界と魔界の狭間に存在するとなると、あの不可思議な出来事にも説明がつけられそうな気がした。
「封印を破り、そこへ行こう。オレたちなら不可能じゃないはずだ」
「……封印された…世界……」
「なんだ、蔵馬。お前なら喜んでくれると思ったんだが、不服なのか?」
「不服というか……」
「何を迷うんだ。昔の血が騒がないか? あの、封印を破った瞬間の快感を、忘れてしまったのか?」
何を迷う?
そうだ、オレは何を迷っているのだろうか。
封印を解き明かした瞬間、彼らに訪れるこの上ない優越感。魂ごと揺さぶる興奮が渦巻き、溢れる好奇心と欲望のままに喉を潤していた頃の記憶が、黒鵺の言葉に運ばれて鮮明に蘇る。
人間と偽りながら、いつも隣り合わせに感じていた魔物の本性。
捨てられなかった自分の一部が、今、重なろうとしている。元に戻りたがっている。
それでも、奥深く渦巻く感情はなんだろうか。
何を迷う?
「蔵馬」
呼ばれて見つめ返した漆黒の瞳が、問い続ける。
何を迷う?
「楽しくなりそうだな」
彼は蔵馬の返事を待たずに、そう言って笑った。