二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

『掌に絆つないで』第二章

INDEX|8ページ/16ページ|

次のページ前のページ
 

Act.07 [飛影] 2019.6.18更新


沈黙の部屋で、二人は微動もせずに向き合っていた。剣を抜いた飛影と、切っ先を向けられた氷菜は、互いを確かめ合うようにただ見つめあったまま。
それでも、変化は着実に訪れていた。
射るように向けられる瞳に、飛影は内心、戸惑っていたのだ。剣を向けているのは自分のほうだというのに、氷菜の視線に絶え難い圧力を感じずにいられなかった。まるで威嚇の方法を忘れたようで、飛影は剣に頼らざるを得ない自身に気づかされた。
そこへ、唐突にカツンという小さく乾いた音が氷の壁に反響する。その音は、一度では済まされず、氷菜が瞬くたびに鳴るのだ。
彼女は鋭い視線を飛影に送りながらも、その瞳から氷泪石を零し始めた。
カツン、カツン…。
とうとう途切れた沈黙。それを機に、氷菜が口を開く。
「飛影。あなたとこうして向き合えるなんて、夢のようだわ。いえ、きっと夢の続きなのね」
飛影は何も返さなかった。何を返せばいいのか、わからない。目前の氷女が本当に自分の母なのかそれすら信用できない状況において、彼が心を開くなど本来あり得ないこと。しかし、あり得ぬはずの状況下で、あり得ぬはずの心境の変化もまた、起きようとしていた。
目前の女が紡ぐ言葉は、魂ごと揺さぶるように飛影の感情をなでるのだ。
「飛影。私は雪菜によく似ているでしょう? そして、あなたの想像通りの姿をしている。違いますか?」
「………どこの誰だか知らんが、何を知っている。オレをここに呼びつけた目的はなんだ」
「それは、こちらの台詞なのよ、飛影」
「なに……?」
「あなたは私と対面して、どうしようとしたの? どうして私を眠りから覚ましたの?」
「何を訳のわからんことを」
「私は、あなたに呼ばれて蘇ったの。魔界には存在しない力を借りて」
「……オレは貴様など呼んだ覚えはない」
「いいえ、確かに私はあなたに呼ばれたの。あなたに会うためだけに、ここへ舞い戻ったのよ。あなたに与えられた肉体を得て」
魔界には存在しない力?
与えられた肉体?
飛影はゆっくりと剣を下ろし、神経を研ぎ澄ませて氷菜の妖気を探った。
彼女の全身からは、妖気でも霊気でもない、異質の気を感じる。この気には触れたことがある。昨日、幽助たちと三人で見た不可思議な光の玉が発していたものだ。
誰も知らない、冥界の存在を飛影はいち早く肌に感じることとなった。
霊界案内人のひなげしの言葉が脳裏をよぎる。
もともと誰かに寄生しなきゃ使えないもの――それが冥界玉の力。
思い起こせば、一度は会ってみたいと考えたこともあったかもしれない。
飛影は冷静に自らの感情を探った。
だが、オレは蘇らせたこいつを前に、一体何をしたいというんだ。
「飛影。願いを叶えていいのよ」
自問自答する飛影に、氷菜が促す。
オレの願い?
母親を蘇らせて、オレはいったい何を願った?
忌み子として捨てられ、復讐という目的を生まれてすぐに与えられた。それからこの国を幻滅し、妹の存在にだけ故郷を感じていた自分。
そのオレが、恨みこそすれ、今さら母親に何を願うというのか。
「あなたの願いは……、」
母と名乗る氷女がゆっくりと口を開き、紡ぎだした言葉に飛影はその瞳を見開いた。
「私を自分の手で、殺すこと……。そうでしょう?」
涙に潤んだ瞳は、もうそこにはなかった。
氷菜は再び飛影を見据えると、暗い氷河の国に似合わない、陽光の下で見せるような微笑をその面にたたえ、そう言い放ったのだ。