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『掌に絆つないで』第二章

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Act.03 [幽助] 2019.6.18更新


視界を閉ざすほどの吹雪に、頬を針で刺すような痛みが続く。
天空に浮かぶ氷河の国に初めて足を踏み入れた幽助は、吹雪よりもその国の異様な雰囲気に圧倒された。
雪菜に先導されて歩く幽助と飛影を、時折すれ違う氷女があからさまに避けていく。
避けながら、物陰で様子を伺うのだ。その目は怯えきっていて、こちらが顔を確認すると、小刻みに肩を震わせた。その姿が憐れで、彼らも自然に目を合わさぬよう進んだ。
ここが、雪菜の故郷。飛影の生まれた国。幽助はなぜか、信じ難い気持ちになった。

雪菜と共に躯の要塞を訪ねたとき、飛影に語られた彼女の目的。
飛影を氷河の国に連れて行くこと。そして、母親と対面させること。
それらの事情を聞かされた飛影は、ずっと黙ったままだ。それもそのはず。死んだはずの母が蘇り、飛影を探しているなどということが本当にあり得るのだろうか。
とはいえ、幽助も飛影も雪菜の人柄はよく知っている。真剣に訴える彼女の姿を疑うことなど、到底無理な話だ。
「母は、お兄さんに呼ばれたのだと言っています。そして、お兄さんに会いたがっています。信じられないこととは思いますが、それは私も同じ…。でも、目の前には母がいるのです。母の友人の泪さんも、母に間違いないと……手を取りあって泣いていました。どう説明すればいいのか、信じてもらおうにも証明はできません。どうか、一緒に来てその目で確かめてください。そして、お兄さんに会いたがっている母の願いを……どうか叶えてくださいませんか」
涙ながらに語る雪菜。
何度も兄と呼ばれながら、飛影はそれを肯定することも否定することも出来ずにただ雪菜を見つめ返していた。彼女の視線は、飛影から逸らされることなく、涙の奥にも凛とした意志が伺えた。
重い沈黙が続く。
幽助にはどうしようもなく、ただそこで時間の流れを恨むほかなかった。そこへ、助け舟を出したのは躯だった。
「飛影、とりあえずそいつの顔を見て来いよ。何者かはともかく、お前を名指しで呼びつける者を無視できないだろう」
躯は多分、雪菜が飛影の妹であることを知っているが、まるで何も知らない振りをして飛影に助言した。
行動の理由を教えられた飛影は、氷河の国へ赴くことを承知した。
飛影の扱い方をよくわかっている躯がいなければ、あの重い沈黙はあとどれくらい続いたかわからない。
幽助自身もその話を受け入れるには、まず雪菜が偽者でないかどうかを疑うところから始めなくてはならなかった。考えることが苦手で行動を先に起こすタイプの彼らに、躯の助言は最適だった。
こうして幽助と飛影は、雪菜と共に氷河の国へたどり着いた。
そしてここへ来てもなお、雪菜の言葉を証明する事実を前に、彼らは戸惑いを隠すこともできず、翻弄されていくのだった。