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卒業証書

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受験はさ今まで経験したことのない重圧がのしかかる時期だと思うよ。今後の人生に関係するほぼラストで最大の機会、人は大学に入ってからというけれどそんなものは終わってる人が言う言葉であって俺達には今は分かりっこない。そうAは顔を赤らめてチューハイに口をつけながら呟いた。俺はでもお前はもう一年チャンスがるじゃないかここの頑張りしだいでやりたいことができるんだからと慰めるように返した。そういうやり取りももう数えきれないくらいした、こいつもしんどいのだろう。そう感じてはいたがそういう俺は大学生活い慣れるか慣れないかの頃合い、浪人生のAに付き合うのはただ友達として応援してたから、だから未成年飲酒を咎める気持ちもないしAのストレス解消になればと思っていた。年も明け、電車の中で単語帳と睨めっこをしている制服姿の受験生を片目にバイトに向かいながら自分の一年前を振り返っていた。Aは大学受験組、俺もそうだったが途中で諦めAO入試、Aよりは数か月早く受験生活を終えていたから正月は友達と初詣に行った。自分なりに気を使ってAとは距離を置いたし、もう終わってますオーラは出さないように努めた。その後は俺は大学入学、Aは浪人。俺はサークルで促されて、Aは逃げるように酒を飲み始めた。Aは弱いのに酒好きで酔うと少し饒舌になる。俺は酔った時のAの言うことが本音だと思っていたし、実際そうだったのだろう。それが全てかどうかは俺には分かりえないものだった。東京にも雪がちらつき寒さも本格的になる頃、Aが大学に受かったと連絡をしてきた。すぐに祝いのメッセージを送り今度飲みに行こうと続けた。メッセージ上では感情がないように見えるがこれがAの癖なのは分かっていた。友人の嬉しい報告に少し気分が良くなりその日のバイトは楽に終わった気がした。数週間後、授業中に電話が来た、結局返せず授業後に折り返したら知らない男の人が喋っていた。父親らしい、何かあったのか。父親の声が小さく低い。しかし、確かに聞こえた。Aが自殺したと。父親は君宛の手紙が机にあったから取りに来てほしいと。Aの家には行ったことがなかったが年賀状があったのでその住所に向かった。初めて父親に会ったが凛としてとても息子を亡くした様には見えなかった。中身は見てないらしく何か伝えられることがあったら教えてほしいと頼まれた。家に帰り、恐る恐る封を切る、この手紙を書いた人間はもうこの世に居なく、俺がいくら望んでも会えないのだと知ると何とも言えない虚しさがあった。手紙には俺は知らなかった浪人した理由、それとAの奥底に沈んでいたが確かにあった、嘆きがつらつらとAの文字で書かれていた。その手紙で俺はAは親と仲良くなかった事を知った。親との対立、家での居場所のなさ、毎日試験の夢を見て眠るのが怖かったこと。中でもAの感情が見て取れたのがAのAに対する自己嫌悪のようなものであった。たかが十何歳で将来の事について詰め寄られる。この二年が地獄だった、自分のやりたいことも分からずただ毎日机に向かうだけ、こんな人生、こんな人間の何処に価値があるというのか、自分を律することも出来ず堕生を貪るのに意味があるのか。周りの人間に出来ていることが自分に出来ないこの劣等感は何なのか、何をすれば出来るようになるのか。もう自分のけつを叩くのには疲れてしまったと。俺は理解したし納得した、それと同時にまぁしょうがないかとも思った。変な宗教ではないが確かに確信しているのだ、死こそが救済だと。この手札が圧倒的不利な状態で一番自分に優しい方法がその負けゲームからなるべく早く退室することだと分かる。この世界に悩みがない人間なんて居なく毎日悩み生きているなんて俺にも分かる。だが、普通の人間は見て見ぬふりができるのだ。仲間との交流、温かい家族。そういう人間こそ世界は希望で出来ているとでも言うのだろう。理解はするがそれがいいなんて微塵も思いはしない。何が乗り越えられる壁だふざけるなそんなのは乗り越えた側の言い分であって何一つそこには優しさなどなく自己陶酔しかない。だったら一人や二人壁を乗り越えられずにまるで間引きのように退場したっていいはずだ。自分の代わりなんていくらでもいるし俺には今の世界なんて相性最悪もいいとこだ。でもだ、でももしも君が何か壁に当たったときは、逃げてもいいし、無視してもいい。苦しいときは美味しいご飯とお酒を飲めば良いし、暖かいお風呂と布団も外せない。何処か旅に出るのもいい、新しい場所では誰も君を知らず、誰も君を気にしない。そうして自分を労り可愛がってあげてくれ、自分が人と違うなんて言うつもりはない。死んではいけないよ、僕は一つ違う選択肢を取っただけでそこの生き死には関係ないけど僕は君が死んだら悲しいし後を追いかけるかもしれないからやめてくれ。人より幸せだと思ったことはないけど不幸だとも思わない、ただ君のような僕と関わってくれた人間が皆幸せになればいいと心から思う。絶望しないで、ずっと下を向いてないで、僕はずっと君と友達だし君の味方だから。手紙はそう締められていた。目の滲みが収まった後ベランダに出ると少し春のような暖かい風が吹いた彼は優しい人だったのだ。人の醜さ、冷たさ、傲慢さを知りながら幸福を願い死んだ。これが病人などであったらドラマものなのだろうがあいにく彼は自殺者だ、この国の年何千何万と自殺する人の一人で片付けられる。彼なしに世界は回る。俺も朝から晩まで一緒にいた大切な友人を亡くしたという事実を抱えながら生きるのだろう、もしかしたら途中で生きるのに飽きてしまうかもしれない。でも彼の残した感情はこんなにも純粋で水のように体に流れていく、春の温かさも、夏の猛々しさも、秋の空しさも、冬の静けさも似たものなのだ。決して忘れられないこの気持ちだが、彼がきっと傍にいるという感覚は妙に心地よいものだった。
作品名:卒業証書 作家名:奏月