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表裏めぐり

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 この物語はフィクションであり、登場する人物、場面、設定等はすべて作者の創作であります。ご了承願います。

               気になる作家

 栄光書籍が主催する「栄光小説新人賞」の原稿を書き上げ、やっと投函するに至った、将来の小説家を目指している飯塚晴美は、地元の大学文学部の二年生だった。小説家を目指しながら専攻は教育学で、先生の免許も取得するつもりだった。
「小説は趣味のようなもので、本気で小説家を目指しているわけないじゃない」
 とまわりにはそう言っていたが、半分は照れ隠しであり、半分は本気だった。
 本当は子供の頃から国語は嫌いで、本を読むのがあまり好きではなかった。そんな晴美が小説家を目指そうと思ったきっかけになったのは、中学時代の友達の影響が大きかった。
 晴美は国語に限らず、美術などの芸術関係にも疎かった。そのくせ算数や理科は得意で、将来は、理数系に進むものだと思っていた。
 中学時代の友達も晴美と同じで、芸術関係にも国語も苦手だった。しかし、
「私、国語が苦手なくせに、本を読むのは好きなのよ」
 と言っていた。
 不思議に思った晴美は、
「本を読むのって、どこが面白いの? 結論が先延ばしになっていて、読んでいて眠くなったりして、私は気が付けばセリフだけを読んでしまっていて、ストーリーなんて、まったく分からない状態になることが多いのよ。だから国語のテストも問題文よりも、問題の方を先に読んでしまって、まったく答えにならないのよね」
 というと、
「それはきっと、時間に追われているのを自分で意識していないからなんじゃないかしら? 私も先に問題の方を先に読む方だけど、要点さえ捉えていれば、答えって出てくるように思うの」
 と友達はいう。
「それでも、国語が苦手なの?」
「ええ、テストではそれなりの点数は取れるんだけど、国語という学問自体が嫌いなのね。国語って文章を科学的に分析しているような気がするのよ。それを書いた作家がどういう思いで書いたのか、国語という学問はあまり考えていないように思うの。しかも、それを勉強して何になるというの? 文法を勉強したって、実際の会話にはそんなに役立たないような気がするの。それくらいだったら、普通に本を読んでいる方が面白いと思うのよね。きっとあなたも私と同じ考えなんじゃないかって思うわ」
 という彼女の話に、
――なるほど――
 と感じた晴美は、
「じゃあ、私も何も考えずに本を読んでみようかしら?」
 というと、
「ええ、そうね。そうすると、作家が何を言いたいのか、そして、何よりもその本が、どのように面白いのかが分かってくると思うのよ。分かってくると、これほど楽しいものはないと思うの。私は作家の人の考えにまんまと嵌ってもいいって思っているくらいなのよ」
 と友達はいう。
 最初は友達の持っている本を借りて読むようにした。
「私はライトノベルのような小説はあまり好きじゃないの。読みやすい小説を選んで読むようにしているんだけど、ライトノベルは読んだことがないわ」
 と言って貸してくれたのが、比較的読みやすいというミステリーだった。
「ミステリーだったら、ストーリー展開が早いし、ところどころで小さなクライマックスがあるから、退屈はしないと思うの。それに読みながら謎解きもできるし、まずはミステリーがいいんじゃないかしら?」
 と彼女は言った。
「さすがにいきなり謎解きまではできないと思うけど、読み始めると嵌ってしまうものかも知れないわね」
「ええ、サスペンスドラマになどなりやすいので、情景を思い浮かべることができるかも知れないわね」
 と言われて、さっそく彼女に一冊借りて読んでみることにした。
 彼女のいう通り、ストーリー展開が早かった。ところどころにクライマックスも潜んでいて、退屈もしない。それよりも晴美にとってミステリーは、展開を読みやすい部類の小説だった。
 事件が起きて警察が初動捜査を行う。探偵が出てくるのであれば、このあたりからだった。
 もちろん、出番がかなり後になることもあったが、晴美にとって想像がつきやすかったのも事実で、一通り読み終わって返す時、
「結構面白かったわね。最後は読んでいる感覚というよりも、目の前に映像が浮かんでくるくらいだったわ」
 というと、
「途中からは一気に読んでしまったでしょう?」
「ええ、思ったよりも、半分くらいからは一気だったような気がするわ」
「それはあなたが、ストーリーとその流れを大体把握したからなのよ。そこまで来るとラストを知りたくて仕方がなくなる。ひょっとして、セリフだけを読んでしまおうなんて衝動に駆られたりしなかった?」
 と言われてハッとした。図星だったからだ。
「どうして分かったの?」
「私がそうだったからね。でも、あなたがこの間今まで読んできた本の話をしてくれたでしょう? その時に、セリフだけを読んでしまって、ストーリーがまったく分からずにそれで面白くないと言っていたわよね?」
「ええ、そうなのよ。でも、今回はそうじゃなかった。あの時は情景を描いた部分を文字で読むのが億劫で、セリフだけを読んでいたって言ったのよね。でも今回はそうじゃなくって、それまで読んできた流れが情景として目に浮かんでくるから、情景部分を読まないと先に進まなかった。それなのに、ラストを早く知りたいという気持ちがジレンマになって、不思議な感覚だったわ」
「でも、それが気持ちいいって思いだったんでしょう?」
「ええ、そうなのよ」
 というと、彼女はしたり顔になり、
「それが本を読むということの醍醐味なの。今まで本を読むのが億劫だったなんて思っていたのが、少し変わってきたでしょう?」
「ええ、でもどうしてなんだろう?」
「それはね。あなたが作家の気持ちになって本を読んでいたからなのよ。自分が主人公になったように感じて読む人もいれば、小説家になったような気持ちになって読む人もいる。あなたはどちらなのかしらね?」
 と聞かれて、
「じゃあ、あなたは?」
 と聞き返した。
「私は主人公かな? 小説を書くという意識はなかったので、きっと主人公になったように思って読んでいたのかも知れない」
 と言われて、
「私は逆に作家さんになったつもりで読んでいた気がするわ」
「同じ本を読むのでも、読者はいろいろな気持ちになることができる。それも本を読む醍醐味なのかも知れないわね」
「そうかも?」
 というと、彼女は続けた。
「私は主人公になったつもりで読んでいるので、気持ちは主観的になっているわ。ただ、それは主人公からの目なので、登場人物の気持ちを基本的に図り知ることはできない。でも、読んでいるので全体を見渡すことができる。上から見ながらも立場としては登場人物と同じ舞台の上なのよ。これっておかしな感覚に思うわ」
「それって、客観的に見ていながら、主観的な目で知らず知らずに見ているということなのかしら?」
「そうかも知れないわね」
「じゃあ、私にはそんな器用なことはできないわ。やっぱり作家の目線でしか見ることができないような気がするの」
 というと、
作品名:表裏めぐり 作家名:森本晃次