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とーとろじい
とーとろじい
novelistID. 63052
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磨き残しのある想像の光景たち

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 画面の中では、ひげのない、顎の盛り上がった肌白のカウボーイが、おばさんと罵られた女優に甘い視線を送っている。日本の田舎の、五十を過ぎたサラリーマンに、悪態をつけられては彼女も不本意だろう。そう思ったとき、彼女は苦虫を噛み潰したような表情をして、シワに顔を歪めた。どうやら、男に失礼なことでも言われたのか、それとも男の視線が嫌だったのか、彼女はコップを磨く手を止めて、胸を張り身構えた。男はそろそろそろと、店のカウンターを回り込み、女に近づいていく。
「はは。こんな年増に」
 夫は笑いながら、ガラスのビアグラスを口につける。
 女は、迫ってくる男と視線を合わせつつ、お腹のあたりに構えた両の手には、なんとピストルを持っていた。男のかたくはにかんだ顔が大写しになる。人が野良猫に逃げられないよう、無理ににこやかな顔を作る、それに似ているなと思った。
「はは」
夫が意味もなく笑う。
と、そのとき、私には最初、それが何の音かわからなかったが、突然耳をつんざく、どこか模範的でもあるバリンという音が、家の空気にこだました。夫が驚きに思わず口ごもるような叫びをあげ、一体何事が起ったのか、私が急いで駆け寄ってみると、白いソファーと夫のグレーのズボンの上に、液体が、ビールが、こぼれ切っているのだった。
「びっくりした。何でいきなり割れたんや」
 夫の言う通り、手にしていたビアグラスが、下半身を綺麗に失っている。
 私は、その場には不似合いかもしれない、声のない笑顔が自分の顔に込み上がってくるのを感じた。お漏らしみたいに夫を濡らしたビールのしみと、そのプンとする匂いが、部屋に沸き立っている。この一場が、まるで映画の中の「おばさん」による逆襲に思われ、画面から飛んできた正体なき銃弾は、私の日々の鬱憤を晴らすための代行者の役目を果たしているようだった。この部屋を訪れた突然の、そして偶然ともいうべき滑稽さが、私にはたまらなくおかしく、残酷なえくぼの浮かぶのをこらえられなかった。