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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
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CoC:バートンライト奇譚 『盆踊り』後編

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「謎の盆踊り」エピローグ



 そして夜が明けた。

 バリツ。タン。斉藤。アシュラフ。
 一同は、新幹線の中、横一列に腰掛けていた。
 正確に言うと、アシュラフのみは、男性陣の二つ前の座席であったが。
 彼らの居る車両に、他の乗客はいなかった。

 進行方向へ向かって、左側の窓際で、バリツは朝の空を見上げていた。
 車窓に広がる、立ち並ぶ新緑の山々は、少しずつ、朝靄の香り立つ町並みへとすり替わりつつあった。
 すがすがしい朝日が生の実感をくれる。
 しかし自らの人生が、昨日までとは一変してしまったことを思い知らされる気がした。

 静かな走行音。
 静寂の中、自分の二つ前の席のアシュラフの寝息が微かに聞こえてくる。時折交じる、「邪教ころすべし……」等々の寝言と共に。

「大丈夫か、バリツ」
 語りかけたのは、バリツの隣に腰掛ける斉藤だった。
 彼もまた深い疲労を覚えているに違いないが、腕を組み、どっかと腰掛けたその姿勢はそれを感じさせない。大物の気配だ。

「あまり大丈夫とはいえないな」
 バリツは額に手を当てた。
「一晩の間に多くのことを経験しすぎた……」

 んがあ~! 
 やたらと大きないびきに顔をしかめる。通路を隔てた席を限界まで倒して眠るタンであった。
 彼の重機操作の技術がなければ、自分達は今、ここにはいなかったのかもしれない。

 櫓が崩れてからのことを、バリツは回想した。
 結果的に散々大暴れした自分達であったが、最後まで協力してくれた好子や、洗脳から解き放たれた村人たちを中心に感謝され、咎められることはなかった。
 事情を知った三吉も「あんたたちには世話になったようだ」と理解を示してくれた。

 そして村人たちが工面してくれた新幹線代によって、自分達は帰路についているのであった。
 ずっと時間を気にしていた林は、駆け込むようにして、自分達よりも更に早い新幹線に乗り込んで去っていった。恐らく、自分達との距離を覚えていたのもあったのかもしれない。
 火事の懸念。仕事の準備。
 心配は尽きなかったであろうが、彼女とも縁があればまた会う日が来るのだろうか?

 広場に遅れてやってきたたい子は、村長の喪失をひどく悲しんでいたが、村長が手遅れであることを理解していた様であった。
 アシュラフから受けた「暗示」は、記憶がないようであり、村長の書斎を荒らしてしまっていたことについても、特に追及はなかった。余裕がなかっただけなのかもしれないが。

 記憶の検索は、村長を照らし出した。
 ――バリツは眉を寄せた。

 村人たちと共に崩れた櫓を掘り返したが、そこに村長の姿はなかった。
 おびただしい流血痕のみが残されていた。

 何故遺体が残っていなかったのかはわからない。
 そもそも彼はどこであの本を手に入れたのか?
 いつの間にか当然のように捉えてしまっていたが、いかなる方法で自分達を呼び寄せ、村人を洗脳したというのか?
 そして――神とは?ヨグ・ソトースとは?

「あまりにも謎が多い結末になってしまったな」

 バリツは呟く。
 口に出すことはなかったが、バリツにとっては、村長の断末魔が脳裏に焼きついて離れなかった。
 彼もまた、もしかすると被害者だったのでは? 彼はその思考を捨てきれずにいた。

「まあ端から見れば」
 察したのか、偶然か。
 斉藤が深く息を付く。
「村の風習も何も分からないウェイ系DQN勢が、めちゃめちゃに荒らしまわったと取られてもしかたがないのかもしれぬ」
「君もまたおかしな例えをするな。斉藤君……」
「けど俺たちはベストを尽くした。それでいいじゃないか」

「そう思いたいが――」
 バリツは、村人達には目立たぬようにと懐に隠していた本に手を当てる。
「私達はとんでもない案件に足を踏み入れてしまったのかもしれないな」

 村長の儀式を止める為にと携行した本であったが、解決後も、この危険な代物を村に放置するわけにもいかなかった。

 実際のところ、この本は、冒険家教授としても実に興味深い産物だ。
 とはいえ、その危険性は、村長に学ばざるを得なかった。
 仮に内容を調べるならば、慎重に慎重を要するのは間違いなかろう。

 いや、あるいは。
 この呪文書は恒久的に秘匿してしまう方がいいのかもしれない。
 いっそ焼却こそが最善なのかもしれない。
 尤もそれは、謎の解明への手がかりを失うことを同時に意味するが……。

 いずれにせよ、判断には時間が必要であった。
 
「これは……始まりに過ぎないのかもしれないな」 

 訪れる沈黙。素早く、しかしながら穏やかな走行音。
 バリツにも今更の睡魔が圧し掛かってくる。
 彼は眼を閉じる。少なくとも今は、自分は生きているのだから。

「ところでバリツ」
 斉藤が語りかけてくる。
 バリツは眠気半分に受け答えする。
「なんだね?」
「俺が被ってた壷あるだろ」
「……うむ」
「今思い出したが……アレたぶん88万くらいで売れた」
 バリツは眼を見開いた。
「……は!?」