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炬善(ごぜん)
炬善(ごぜん)
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CoC:バートンライト奇譚 『盆踊り』後編

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5、儀式の真相を求めて



 タンとアシュラフが好子に聞いた情報によると、村長の家は村の最奥に位置しているようだ。
 道中には、もう何十年も前に立てられたのであろう民家が立ち並んでいた。
その周囲には畑や田んぼが広がり、農具が垣間見える掘建小屋が、作業の面影をあちこちで感じさせる。だがいくつかの畑は荒れており、しばらく手入れがされていないことが、素人目にも伺えた。
 恐らくそれらは、今踊っている村人たちの畑なのであろう。

「ふと思ったんやけどさ」タンが道中提案する。
「村長の家に行く前に、今踊ってる村人たちの家で情報集めるのもアリなんじゃない? 村長の家にいったとき、なにか有利になるんじゃね?」
「なるほど、一理あるが――」
 バリツが答えかけた途端、アシュラフの圧を自らの足元の方角から覚え、押し黙る。

「愚かなことです」
 アシュラフは大きくため息をつき、軽蔑の眼差しをタンに向ける。
 先ほどからいったん落ち着いている様子ではあるものの、やはり「風呂入れさせて」発言の功罪は大きい。

「せいぜい、かゆうま日記が出てくるのが関の山でしょう変態」
「い、いやでもさ、かゆうま日記でも、読んでおいた方が村長の家に行ったときの地雷を避けられるんじゃないの?」
 タンは日常においても、一度拘り出すと止まらない傾向があった。
「あ、あー。情報は大いに越したことはないが、タン君。何にせよ時間はあるまい」

 そうこうするうちに、一同は村長の家へと到達した。
 
 道中見かけてきた民家と比べて、いっそう大きい一階建て。
 上等な、しかしながら使い古され、苔と蜘蛛の巣が張り付いた灯篭型の電灯が、庭の入り口に光を投げかけている。その白味を帯びた明りは、昔情緒溢れていたが、怪異に巻き込まれた今となっては、陰鬱を引き立てていた。

 表札はなかったが、好子の話では村人全員が踊性とのことであるため必要がないのだろう。
 タンがスイッチのみの簡素なインターホンを押すと、しばらくして、引き戸がガラガラと音を当てて開かれる。

 少し腰の曲がった、浴衣姿の初老女性が、怪訝な面持ちを三人の来訪者に投げかけた。
 好子の話では、彼女の名は、踊たい子。村長の妻に間違いなかった。

「こんばんは~、俺たち村の外から来たんですわ。俺はタン、っていいます」
 社交的なタンが鷹揚に語りかける。バリツとアシュラフ(彼女はほぼ会釈のみのようなものであったが)も簡潔に名乗った後、自分達は好子の紹介で訪れたことを付け加えた。

「おばんです、村の外からやってきたんですねえ。ようこそいらっしゃいました」
 初老女性は答えるが、外へ出て迎えるような様子はない。
 おびえている様にすら見えた。好子からの紹介、ということがなければ、間もなく戸を閉めてしまっている可能性すらあった。

「何をしにきたのですか?」
「あの踊りについて教えていただけないだろうか――」

 バリツが切り出す。
 始めは口ごもった様子であったが、バリツが説得し、アシュラフもそれに続くと、彼女は躊躇いがちにではあるが、答えてくれた。

 隠し通すことへの後ろめたさもあったのか、話すうちに警戒心が少しでも解れていったのか。彼らは会話のうちに、玄関の内側へと案内されていた。

「そうだ、こいつら、口先紳士と眼力のすごい幼女のツーコンビだったなあ」
 タンが後ろで呟く脛を、アシュラフがその踵をもって蹴飛ばした。
 予備動作ゼロの不意打ちに、言葉にならぬ呻きのまま、不思議なステップを踏んだ後、タンは庭先に座り込む。

 好子と似通った証言も多かったが、新たに得られた情報があった。
 
 親睦会が開かれたのは先月であるが、村長の様子がおかしくなったのは、先々月ごろであった。
 好子の証言どおり、珍しい本をどこぞから仕入れ、読み漁り始めていたようだ。
 村長は元々、本の虫であったが、速読家であり、一冊の本にそこまで固執するのは、珍しかった。
 しかも、食事もロクに取らず、書斎に篭ることも増えたという。
 妻から見ても気味の悪いものであったようだ。

「それから間もなくですかねえ」
 沈痛な面持ちで、たい子は語る。
「神様がどうとか、次元を超えるとか、過去も未来も一緒だとか、生贄がいるとか……おかしくなっちまったように呟くようになってねえ。書斎でもよくわからないお経みたいなのを一人で唱えてるしねえ。ああ、くわばらくわばら……」

 あまりに物々しい証言であった。 
「やはり邪教崇拝」
 アシュラフが呟く。
 真面目に可能性が否定できないどころか、その線が濃厚になってきていることに、バリツ(と、庭先で悶絶しながら話を聞いているタン)は複雑な心境を抱えざるを得なかった。

 そして証言は続き、大きく二つの情報を得た。
 あの踊りは、読み漁っていた洋本の内容に基づいていること。
 そしてその内容は、単なる踊りではないこと。
 ――即ち、「神」なるものを呼び出すために行っている、ということ。

 バリツとアシュラフは、書斎にて、その本を実際に確認してみたい旨を伝えた。
 ところが、気持ちが少しでも解れたように見えたたい子の表情が、恐怖へと急変した。
「書斎はみちゃダメですよ。あそこを勝手に見せたりしたら、旦那に殺されてしまいます」

 バリツは洞察した。
 どうやら村長は、控えめに言って、なかなかの亭主関白のようだ。
 異変に気づきながらも止められなかったのは、村長への恐怖心によるところが大きいのかもしれない。
 ひょっとすると、家庭内のみならず、村全体においても、だ。
 だが、引くわけにはいかない。

「そこを何とか頼めないか、これはただ事ではないし、止めないことにはあなたの村長の身にも危険が及ぶかもしれないのだ」と、バリツが熱っぽく説得しかけた時であった。

「お下がりなさい」
 アシュラフが、バリツを(見た目とは明らかに不釣合いなものすごい力で)押しのけ、外に出した。
 そしてそのままたい子に向き直り、
「失礼」
 後ろ手で戸を閉めてしまった。

 バリツと、ようやくダメージから回復しよろよろと立ち上がったタンは顔を見合わせる。

 数秒の沈黙。遠くから聞こえる、太鼓と音楽の音色。
 一連の流れの中、無意識下にあった、山奥のとりどりの虫の音色。

 パァン!!!
 玄関口からの轟音に、彼らは一様に飛び上がった。

「ななな、なんだ今のは……」
「あのさ、アレやな、あの子止めたほうがええんちゃう?」
「いやタン君、ここは彼女を信じよう。というか、今干渉したら、我々の身こそ危険だと思うぞ」

 廊下に立っとれ宣言を課された、一昔前の学童のように、大の大人二人はそのまま待った。
 ともあれ、20秒も経たずして気になって仕方がなくなった。

 目配せした二人が、こっそり近寄った時。
「いいでしょう」
 ガラガラパーン! 小気味よくも五月蝿い音を伴い、引き戸が開け放たれる。
 見ると、玄関の隅に、そっと壁にもたれるようにしたまま頭を垂れているたい子の姿があった。
 
 バリツは流石にぎょっとしたが、顔や肌は青ざめた様子もなく、寝息を立てている様子であった。