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カレーライスの作り方

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8.嫌カレー運動



8.嫌カレー運動

 202X年、2010年代から勢いを増していた嫌煙権は完全に喫煙者を公共の場から追い出し、外出先で煙草を吸いたいと思えば、部分的にでも喫煙が許されるコーヒー店やファーストフード店に入る以外になくなった。

 カレーも香りが強い、レストランでもカレーを提供していればその香りが漂う。
 特に喫茶店などのランチタイムだとメニューの種類が少ないだけに店内はカレーの香りで満たされる。
 純粋にコーヒーを楽しもうとしている客にとってはその香りは邪魔なだけ、それはもう『香り』ではなく『匂い』だ。
 それを嫌う声が強まるに連れて、ランチタイムにカレーを出さなくなる店が続出した。
 そう言った声は、一歩譲れば二歩、二歩譲れば三歩と踏み込んで来る。
 その声に抵抗することもなく屈したのが役所の食堂と企業の社員食堂、瞬く間にそれらの食堂からカレーは駆逐された、そうなると流れは止まらない、わずかな間に町中のレストランのメニューからカレーが消えて行った。
『嫌いだ』と言う感情は、それが容認されれば更なる容認を求めて歯止めが利かなくなる。
 次に槍玉に上がったのがカレー専門店、カレーを大量に作ればどうしても周囲にその香りは漂う、嫌カレー運動がそれを容認するはずもなかった。
 やがてテレビにはしたり顔の『専門家』が出演して『カレーの害』を吹き込むようになる。
 曰く、「カレーは食欲を亢進させるのでつい食べ過ぎてしまいがち、ダイエットの敵、メタボの味方です」
 曰く、「辛いものを食べ過ぎると脳神経に悪影響が出る可能性があります」
 マスコミの後押しを受けると勢いは止まらない。
 カレーは手軽な家庭料理の代表でもある、町中で食べられなくなれば夕食にカレーが供される頻度も上がる、すると問題にされたは朝の通勤電車、町にカレーの香りが漂っている頃には気にならなかったのだが、それが一掃されると、前日の夕食に食べたカレーの匂いすら目立つようになり、公共交通機関で通勤、通学する社会人や学生もカレーを食べられなくなってしまった……。

 こうして日本からカレーは駆逐された。

 しかし、禁じられればそれを強く欲するようになるのが人の常。
 密かに『全日本カレー愛好家連盟』が組織されて、地下に潜った。
 そして『全国愛煙家連合』と手を組んで攻撃の矛先を見定めている。
 日本からすべての香水と化粧品の香りが消え去る日はそう遠いことではないだろう。
 そうなれば日本の人口の約半数を有する結社が組織され残りの半分を標的に……。
 
作品名:カレーライスの作り方 作家名:ST