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BYAKUYA-the Withered Lilac-

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Chapter3 紅き蜘蛛、ウィザードライラック


 ビャクヤが特殊な能力を手に入れ、影を狩って喰らうようになってから、早くも数週間が過ぎた。
 闇鈎の顕現(ケリケラータ)の力の扱いにもすっかり慣れ、八裂の八脚(プレデター)という四対八本からなる鉤爪も、まるで自分の手足のように扱えるようになった。
 鉤爪は鋼鉄のような硬度を持ち、アスファルトを抉ったり、鉄製の物さえも簡単に両断するほどの切れ味を誇る。
 そんな性質でありながら、伸縮自在で、伸ばせばビャクヤの身長を超える長さになり、ロープのように相手を絞めつける柔軟性をも持っている。
 しかし、この顕現において、最強の武器となりうるのは、この八裂の八脚ではない。むしろこっちが附属品とも考えられる。
 この顕現の本当の武器、それは、ピアノ線のような鋭さを持ちつつ、貼り付いたら決して対象を放さない粘着性も持っている蜘蛛糸(ウェブトラップ)である。
 この蜘蛛糸には、獲物を捕獲する他に、その獲物の顕現を吸い込むことができた。
 この糸で顕現を喰らうことで、ビャクヤの腹は満たされる。もちろん、普通の食事も可能であるが、完全な満腹感は得られない。
 故に、ビャクヤの食習慣は、三食人の食べ物を摂り、『夜』に本当の食事をするべく狩りに出かける、というようになった。
 尤も、三食プラス一食などという面倒なことは滅多にせず、狩りで夕食を兼ねることがほとんどであった。
「ん……うう……」
 ビャクヤは、眠りから覚めた。そして寝ぼけ眼で、枕元の携帯の画面を見て時間を確認する。
 携帯の時計は、時刻二十二時十二分を表示していた。
「うーん……」
 ビャクヤは、時刻を確認すると、携帯をその場に放り、体を起こして頭を手ぐしで撫でた。そして、口元に手を当てて、くあっ、と欠伸をする。
 ビャクヤの生活は、昼夜逆転状態になっていた。
 夜に狩りへと出掛けなければいけない都合上、帰宅するのは未明であり、日が昇るか否かの時間に眠りにつく。
 学校へは、姉さんの事故以来ずっと通っていない。ビャクヤを心配する担任教師が、何度か訪れてきた事はあったが、すっかり眠り込んだビャクヤはインターフォンにすら気が付いていなかった。
 今のビャクヤの行動する理由は、ただの食事では満たされない腹を、影を喰らうことで満たすことだった。
「……ふう。頃合いだね。お腹も空いたし。行こうかな」
 ビャクヤは、ベッドから出て、壁のフックに架かる学ランを取って羽織った。
 学生が制服姿でこんな時間に徘徊しようものなら、即刻補導の対象になりそうなものだが、ビャクヤは、服を選ぶのも洗濯するのも面倒なため、いつも制服姿であった。
 時期的には、まだ夏服で十分なのだが、獲物に気付かれないように、できるだけ黒い格好をしていた。また、未明は肌寒い事が多いために着ていた。
「今日は。あのご馳走がいたらいいな。雑魚にはそろそろ飽きちゃったからね」
 ビャクヤは、財布も携帯も持たず、更には家の鍵もかけないで出かける。こうした携行品は狩りの邪魔になる上、鍵を開け放っていても、ビャクヤの家には盗んで得をするようなものは何もなかった。
 財産は、親権を持つ親戚に管理されている。姉さんと二人暮らしをしていた頃からそうなっていた。
 しかし、ビャクヤには、絶対に肌身離せないものが一つだけある。それは、姉さんから誕生日プレゼントとして贈られた紫のループタイであった。
 ループタイが目立つように、ビャクヤは学ランのボタンを全開にしている。学校でも例外ではなく、何度も教師に咎められてきたが無視していた。その姿が姉さんに、格好いいし、背伸びをしている感じがかわいい、と褒められたからだった。
 そんなこんなで、ビャクヤは、姉さんとの思い出を懐かしみながら、狩り場である川沿いの広場へとたどり着いた。
 広場をさらに進むと、街からの音は聞こえなくなり、人の気配が全くしない『夜』へと入っていくのを感じる。
「あいたっ」
 ビャクヤの顔に、何かがぶつかるような衝撃が走る。
「……まったく。なかなか慣れないもんだね。この感じ……」
 特殊な能力を持つものが入ることのできるこの『夜』に入ると、電撃でも受けたような衝撃を感じる。ビャクヤは、これが嫌で仕方なかった。
 しかし、一度入った後はどうということはない。後は腹を満たすべく狩りをするだけだ。
「ああ。今日も旨そうな匂いで一杯だ! ……うん?」
 ビャクヤは、獲物の匂いとは違う、変な感じを受けた。
「変だな。獲物の匂いはするんだけど。なんか変な匂いが混ざってるな。なんだろう?」
 ビャクヤは、いつもと違う様子を訝しみながら、匂いのする方へと向かって歩いた。
 歩いていくと、匂いとは別に、自らに宿る能力のような、異色の何かを感じた。大音量の音の振動が空気を伝うように、皮膚を刺激されているのだ。
 やがて、この『夜』にはあり得ない音を聞き取ることで、ビャクヤは違和感の正体を掴んだ。
「人の声がする」
 それは、二、三人による会話の声ではない。五、六人、ひょっとすると、十人はいるかもしれない。
 そして、ビャクヤは声の主らの姿を捉えた。
 街灯の下に集まり、川沿いの落下防止用のフェンスに寄りかかって、何やら談笑している男たちがいた。
――何で人がこの『夜』にいるのか分からないけど。騒がしいったらない。食事の邪魔になるよ。帰ってもらわないとね――
 ビャクヤは決めると、光に群がる虫のような男たちへ、つかつかと歩み寄った。
「ああ?」
 ビャクヤの靴音に気が付き、男たちは話を止めた。そして全員がビャクヤの方を向いた。
 男たちの数は、ビャクヤの見立て通り、十人には満たないまでも、それに近い数であった。
「あれ? キミは……」
 ビャクヤは、この集団の中、見覚えのある人物を見つけた。
 それはあの日、ビャクヤが影に喰われかけた日である。自棄になって、街の中を行く人間に向かって当たり散らした時に、ビャクヤに因縁をつけてリンチした不良集団がいた。
 不良集団のリーダーと呼ばれる者が、爪がナイフのようになるという、妙な能力を行使していた。
 死に迫っていただけあって、ビャクヤは彼を覚えていた。
「や。また会ったね」
 ビャクヤは、微笑を浮かべながら軽く右手を上げる。
「ああ? 誰だテメェ?」
 不良のリーダーは、ビャクヤを全く覚えていないようだった。確かにあれから数日は経っているが、殺そうとした人間を覚えていない辺り、この男は人殺しを繰り返しているのではないかと思われた。
「覚えてない。か。まあ。僕もキミのことは興味ないから別にいいけどね。どうしてキミたちみたいなただの人間が。ここにいるのか分からないけど。帰ってくれるかい? 僕はこれから食事の時間なんだ」
 内心、言ったところで聞かなそうな連中だとは思っていたが、ビャクヤはとりあえず話し合いで解決しようとした。
「なんでオレらがテメェの言うこと聞かなきゃなんねぇんだよ?」
「メシが食いたきゃお家に帰りな。ガキがこんな時間にうろついていると、怪我じゃすまねぇぜ?」
 手下の不良は、早くも喧嘩腰であった。
作品名:BYAKUYA-the Withered Lilac- 作家名:綾田宗