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カクテルの紡ぐ恋歌(うた)Ⅺ

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(第九章)アイスブレーカーの行方(5)-新たな春



 翌日、統合情報局第1部のフロアは朝から奇妙な緊張感に包まれていた。そこに現れた大須賀恵は、素早く気配を察し、珍しく静まり返った「直轄ジマ」にそろりと歩み寄った。
「ねえ、美紗ちゃん」
 彼女らしからぬ囁き声に、美紗の正面に座る3等海佐のほうが先に応じた。
「何しに来たんだよ」
「あれ、小坂3佐。席替えしたのお?」
「先週からこの場所だよ。一人メンツが入れ替わったから」
 小坂は、窓際でイガグリ頭と話している四十前後の航空自衛官を指さした。指揮幕僚課程に入校した片桐の後任者である武内3等空佐は、同じ3佐でも在階級年数の関係で小坂より上位に位置付けられた。そのため、序列に応じて若干の席替えが行われたのだ。
「ふうん。でさ、日垣1佐の後釜ってどんな感じ?」
「新しい1部長は『ヒグマ』だって聞いてただろ?」
 小坂はちらりと第1部長室を見やり、ますます声を低めた。
「アタシ、信じたくない情報はこの目できっちり確かめないと気が済まないの」
「それでわざわざ見に来たってのかよ。新1部長に比べたら、オレ間違いなく『王子様』だぜ。断言する」
「全然意味分かんないんだけど」
 大須賀が眉を吊り上げてローズピンクの唇を尖らした時、フロアの一角でドアが荒々しく開け放たれる物音が聞こえた。「直轄ジマ」の一同と大須賀が、音のしたほうを恐る恐る見やる。
 第1部長室の戸口には、1等陸佐の階級を付ける縦横に大きな自衛官がどっしりと立っていた。直轄班長の松永より若干毛足の長い灰色の髪はワイルドに逆立ち、ゲジ眉の下の大きな目は、左胸に煌めくレンジャー徽章と同じく、厳めしい光を放っている。
「アタシ、帰る……」
 大須賀が「直轄ジマ」から一歩離れた瞬間、新しい第1部長はフロア中に響くようなしわがれ声で「松永ぁ!」と叫んだ。先任の佐伯3等海佐は、雷に打たれたかのごとく、ひょろりとした上半身を硬直させた。内局部員の宮崎は銀縁眼鏡をギクリと光らせ、小坂はずんぐりした身体をぶるっと震わせる。新入りの3等空佐は、カメのように首をすぼめて他の班員の様子をうかがい見た。