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ショートショート集 『一粒のショコラ』

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ー39ー 穏やかなる道


 私は三姉妹の次女。
 幼い頃、父は家の中が華やぐと言って喜んでいたそうだが、女四人に男一人では居づらいこともあっただろう。
 二歳上の姉は容姿に優れ、五歳下の妹は頭脳が秀でていた。間に入った私は平凡でこれといった取り柄はなかった。
 このように違った個性の姉妹だったが、三人はとても仲がよく、妹が学校を卒業すると、私たちは親元を離れ三人で暮らし始めた。母は姉妹の仲の良さが自慢だと言い、快く私たちを外へ出してくれた。
 ところが、楽しく暮らす日々の中で、若い三姉妹はそれぞれの適齢期をやり過ごしてしまった。
 姉はその美貌で男たちを集めたが、会話に乏しく、交際が長く続くことはなかった。
 妹は豊富な知識と話術で仲間が多かったが、女として見られることはなかった。
 そして、人前に出るのが苦手な私は家で過ごすことが多く、休日は読書や手芸に費やした。
 そんな中で、週に一度は三人そろって外食に出かけた。食通の姉が、美味しい店を見つけては連れて行ってくれた。
 また、月に一度は近場の観光地へも足を運んだ。アウトドア派の妹が、季節に合ったお勧めのスポットを案内してくれた。
 そして、私がしたことといえば、街でふたりに合った洋服や小物のアドバイスをしたくらいだったが、ふたりはとても喜んでくれた。
 こうして、私たち三人の楽しい暮らしは続いていった。
 
 
 しかし時は流れ、縁遠い私たち姉妹は、いつしかシニア世代に足を踏み入れていた。そんなある時、私たちの生活に大きな変化が起こった。
 姉が突然、結婚したのだ。六十を過ぎての初婚の花嫁は、シックなドレスに身を包み、控えめな笑顔を浮かべた。年齢は隠せないが、それでも姉は十分美しかった。
 続いて妹が嫁いだ。入籍だけの五十半ばのカップルだったが、旅行に趣味にと二人はアクティブに行動し、夫婦というより相棒という方がピッタリだった。
 残された私は実家に戻り、八十を過ぎた両親とともに暮らし始めた。年老いた親の世話をするつもりで帰ったのだが、両親はひとり取り残された私を憐れみ、その将来を心配しているようだった。
 そんな両親との穏やかな暮らしは、二年ほどで終わりを告げた。寿命を全うした二人を見送り、再び一人になった私を気にかけ、姉や妹は様子を見にしばしば通ってくれた。それでも、この歳での一人身は、正直寂しかった。自然と足は両親の墓へと向き、寺の住職と言葉を交わすようになった。
 
 
 私は今、両親の菩提寺で暮らしている。齢七十にして人生初のプロポーズを受けた。墓に眠る両親が、私を心配して引き合わせてくれたのだろう。
 夫婦は普通、四、五十年は共に暮らすものだろうが、私たちの場合、明日のことはわからない。だから、一日一日を大切に、愛おしく過ごしている。
 そして、両親の月命日にはいつも、その墓前に三姉妹が顔を揃えた。姉妹仲の良いのが自慢だった母は、きっと、喜んでくれていることだろう。