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クリスマス・ディナー

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 家にいたたまれなくなって出てきてしまったものの、結局、母の不在を、そのさみしさを募らせることにしかならなかった。
 翔太はブランコを降りて公園の出口に向った。

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 亮太は二階でぽつんと一人でいるはずの翔太の事が気がかりだった。
 だが、とても手が離せない。
 里美を失ってしばらく後、亮太はアルバイトの女子大生を雇った。
 だが、あまりやる気のない娘で接客態度も無愛想、アットホームな雰囲気が売りのひとつだった店の雰囲気には合わない上に、ドタキャンの欠勤も多く、しかもそれは週末に集中する。
 女子会だか合コンだか、はたまたデートだかは知らないが、誘いがかかるとそっちを優先してしまうようなのだ。
 今日もそうだ、二十三日になって『明日、あさってはバイトに来られません』と言われても補充のしようがない。
 『もう来なくて良いよ』と断るしかないと腹を決めたが、今日明日は一人で乗り切るほかはないのだ。
 一人で注文をとり、調理して給仕するのは目が回る忙しさ、お客さんを待たせてしまうこともしばしばあるくらいだ。
 気になっていてもどうにも暇がない、それに常に複数の調理機器が音を立てているので翔太が家を抜け出したのにも気がつかなかったのだ。
 
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 翔太はしくしくと泣きながら歩いていた。
 家まではそう遠くないのだが、今ばかりは随分と遠く感じる。
 ジャンパーも着ないで出てきてしまっていたので寒さも身に沁みる。
 そして、四つ角を斜めに突っ切ろうとした時、斜め後ろから急に迫って来たヘッドライトに驚いて立ちすくんだ。

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 文江は涙をこらえながら家路を急いでいた。
 これ以上宏明を待ってみても仕方がない、もう無理なんだと見切りはつけた、しかし、三年の間恋人であったことに変わりはない、その宏明との決別が悲しくない筈もない……。
 駅を出て繁華街を抜け、住宅街へと向う途中、向こうから小さな男の子が一人で歩いてくるのに気がついた、どうやら泣いてもいる様子だ。
(親に怒られたか何かで飛び出しちゃったのかしら……)
 そう思って注意して見ていると、四つ角に向って走ってくる車にも気付いた。
 もし、どちらもそのまま進んだら事故になる……そう思ったが、男の子が四つ角で立ち止まるか、車が注意して減速すれば済むことでもある、それほどの危険はないだろうと思っていたが……。
 男の子は心ここにあらずといった感じでフラフラと四つ角を突っ切ろうとし、車も減速するそぶりを見せない。
「危ない!」と思った時にはもう体が動いていた。
 文江は車スレスレで四つ角を突っ切ると男の子を抱きかかえた。
「バカヤロー! 死にてぇのか!」
 運転手は身勝手な罵声を浴びせるとそのまま走り去った。
 文江も言い返してやろうかと思ったが、腕の中の男の子は目をまん丸にして見上げている、文江は罵声を飲み込んでしゃがみこむと、男の子に言い聞かせた。
「ちゃんと車に気をつけなきゃダメよ、どこもなんともない?」
 男の子はコクンと頷いた。

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 亮太はようやく最後のお客さんにパスタを出した。
 後はデザートとコーヒーを出せば終わり……亮太は前掛けを外して二階の様子を見に行こうと思ったのだが、その時、ドアに付けたカウベルがカランコロンと音を立てた。
「すみません、もう終わり……翔太! どうしたんだ?」
「怒らないであげて下さい」
 落ち着いた感じの女性が翔太を庇うように言った。

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「そうか……そうだったのか……翔太、お父さんが悪かった、淋しい思いをさせたね、だけど勝手に外に出て言っちゃ危ないじゃないか……本当にありがとうございました、おかげで助かりました」
 亮太は文江に深々と頭を下げた。

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 文江は翔太を送り届けてやる道すがら、翔太の話を聞いてやった。
 六歳の子供にとっては無理もない話だ、そして、話を聞きながら自分と重ね合わせてもいた。
 自分が父や母を失ったのはある程度年齢が行ってからだが喪失感は大きかった、六歳で失ったならその喪失感は計り知れない。
 自分はついさっき恋人を決別して来たばかりだが、もう心が繋がっているのかさえ疑わしい所まで来ていた、この子の寂しさに比べれば大した事はないじゃない……そう思えると同時に、たった今会ったばかりのこの子に愛情さえ感じるようになっていた。

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 お客さんが全て帰った後の店で、翔太は亮太の特製パスタをもりもりと食べている。
「さっきまで泣きじゃくっていたくせに」
 そう言う良太だが、その目と口調には愛情がこもっている。
「逞しいじゃないですか、子供は大きくなるのが仕事ですから」
 文江も目を細める。
「ええ、仰るとおりです、でも、危うくこの子を失うところでした……」
「でも、クリスマス・イブのレストランを一人で切り盛りされていては無理もありません」
「しかし、少なくとも明日はこの子にひもじい思いをさせないようにしないと……翔太も勝手に一人で出て行ったりするんじゃないぞ」
「うん、ごめんなさい」
 今は愛情に包まれていると実感しているからだろうか、翔太も笑顔で答えた。

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「池田さんもパスタをいかがですか?」
「夕食は済ませましたから……お手数でしょうし」
「いえ、どのみち僕もこれから夕食なんですよ、味には自信がありますよ」
「そうですか?……では頂こうかしら、翔太君が食べているのを見て、美味しそうだなとは思っていたんですよ」
「そうですか、では七分だけお待ち下さい、すぐに出来ますから」

 翔太の分と合わせて三皿のパスタが並んだ。
 三人でのささやかなクリスマス・ディナー。
 だが、それは三人それぞれの心に灯を点すものになった……。

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「いらっしゃいませ」
 しばらく後の亮太のレストラン、笑顔でお客さんを出迎えているのは文江だ。

 宏明とは社内恋愛だった、そう大きい会社ではないから嫌でも顔を合わせることになる。
 それがどうにも気詰まりになって転職を考えていると、亮太に『もし良かったら、次の就職先が決まるまでで良いからアルバイトしてもらえませんか』と誘われたのだ。
 レストランはアットホームで活気があり、働いていても楽しい。
 それに翔太も懐いて慕ってくれているので可愛くて仕方がない。

 一応ハローワークに登録してはいるが、『次の就職先』にはまるで心当たりはない…………かな?…………。
 



(終)
作品名:クリスマス・ディナー 作家名:ST