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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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ブドウのような味の恋

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3



「この街には有名な藤の花があるの。そこに案内するわ」
裕子はタクシーの待合所でそう言った。
やがて「日本一のフジの花」の看板が見えて来た。
園内に入るとたくさんの人たちで混雑していたが、それよりも藤の花の香りが漂って来た事には驚いた。
白い花も藤色の花も大きな棚に支えられていた。
「日本一だけの事はあるわね。日本一でなければ関東一かな」
私には理解できない裕子の言葉であった。
「麗も一番が良かったんです」
「・・・・」
「施設では何時も褒められていたらしいです。絵も一番上手いって言われたらしい」
裕子は私の腕に手を入れて来た。
誰に見られても恥ずかしさはなかった。
「小さな世界でも一番で居られる事は居心地が良かったのでしょうね」
「連れ戻したのがいけなかった。今度は一番びりになったんだから」
私は黙っていた。ただ白い藤の花の下を裕子と腕を組んで歩いていた。
「今の私は一番幸せ」
裕子はつぶやいた。
私はその裕子のつぶやきが嬉しく聞こえたのだが、やはり素直になれなかった。
妻の顔が浮かんだ。
妻より若く、妻より美しい裕子である。
この先に進めば溺れて行く事は解っていた。
「後一時間もするとレーザー光線のショーがあるわ。それまでコーヒーでも飲んで待ちましょう」
「帰りが遅くならない」
「私は・・奥様に叱られる」
私は首を横に振った。
注文したコーヒーが届いた。
「三枝さんは私の一番信頼する人、好きな人、寝てみたい人、どれを選んでくれるかしら」
私はやはり黙っていた。どれも選びたかったのである。