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夢見る家族

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僕の給料




 娘が母親を、僕が妻を亡くした時、娘は五才だった。突然のことに喪主を務めた僕は呆然とした顔をしていたが、娘は目を覚まさない母親を不思議に思っていた。
「ママ早く起きないかなぁ」
 そんな言葉が参列者の嗚咽を誘っていたが、僕はといえば、最愛の娘を遺して逝った妻の無念さには想いが及ばずに、参列者への挨拶でいちいち頭を下げながらも、自分のことばかりに考えを巡らせていた。これからの生活や子育てを想像すると、魚を焼いている時に回覧板を持ってお隣さんがやって来て、おまけに電話が鳴り出して、くしゃみを我慢している状況で、何から手を付けて良いのか解らずに全てを放り投げてワァーと叫び出したくなるような感情のてんてこ舞いだった。そんな人生最大の危機というべき状況に僕が向き合うことが出来たのも、やはり娘の存在が大きかったからだ。いや正直に言おう。娘の存在が全てだった。
 子どもが天使だと思ったのは、出産後初めて妻に抱かれた娘を見た時、後にも先にもその一度きりだった。それ以降、娘のことを天使だと思ったことはなかった。赤ん坊の頃は夜中に泣くし、幼児に育つと何にでも興味を示して、口に入れたり触ってみたりと目が離せなかった。子育てを任せきっていた妻の様子を見て見ぬふりをしながら僕はいつも顔をしかめていた。

 実際に子育てを含めた生活の全てが僕の両肩に掛かってくると精神的にも肉体的にも余裕がなくなっていった。風呂掃除を忘れたり、気づいたら洗濯物が山のように溜まっていたりと、こんな感傷は妻も望んでいないと思うけど、改めて妻の苦労を思い知ることになった。
 幸いにも義母が近所に住んでいて、毎日のように娘と遊んでくれたり、夕飯を作ったりしてくれるので娘には不自由な思いをさせてはいなかいと思う。

 ある日帰宅すると、義母から娘が僕の給料を知りたがっていることを聞かされた。小学校の友だちとそんな話でもしたのかと思い、寝る前の娘に聞いてみると、僕の時間給を知りたいようだった。ごく普通のサラリーマンなので時間給など考えたこともなかったが、ざっと頭の中で計算してみると、少し割の良いアルバイトとほとんど変わらない時間給だった。そんな情け無い時間給を娘に伝えると、フ~~~ンとだけ言われてしまった。理由については、「ヒ・ミ・ツ」というばかりで最後まで教えてもらえなかった。

 次の日曜日、一緒の昼食を食べ終って自分の部屋へと戻った娘は、小さな両手で何か大切なものを包み込むようにして僕の前に現れた。見ると十円玉や五十円玉に混じって五円と一円も顔を見せている。数えるとちょうど僕の時間給分あった。
「これでパパの一時間をあたしにちょうだい。一緒に公園に行って!」

 二人でブランコに揺られ、ママとよくこの公園へ来たことをキラキラと輝いた眼で話してくれた。僕は空を見上げソッと妻に伝えた、天使をありがとう。

(了)
作品名:夢見る家族 作家名:立花 詢