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Journeyman Part-1

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3.構想



 ケン・サンダース。
 くしくも新チーム名と同じ姓を持つ彼はアメリカ生まれだが、トリニダード・トバコ出身の父と日本出身の母を持つハーフだ。
 体格にあまり恵まれているとは言えない、公称5フィート10インチ、180㎝としているが、実は2インチほど低く、175㎝しかない、体重も190ポンド、86kgと公称しているが、実は178ポンド、80kgしかない。
 日本人としてならば決して小さくはないが、アメリカ人、とりわけフットボーラーの中に混じるとひときわ小さい。
 しかし、父親譲りの身体のバネは強靭だ、それを以てすれば小さな身体も必ずしも不利にはならないのだ。
 オフェンスラインメンならばランニングバックが走れる穴を開け、クォーターバックがパスを投げる時間を稼いでやらねばならないから大きな身体とパワーは不可欠、ディフェンスバックと競り合ってパスをキャッチしなければならないレシーバーならば、体重はともかく、身長と俊足は不可欠、大きな身体のラインメン越しにレシーバーを探し、パスを投げるクォーターバックも身長が高い方が有利だ。
 しかし、必ずしも大きくなくても務まるのがランニングバックと言うポジションなのだ。
 ケンは決して大きくないが、瞬時にトップスピードに乗れるパワーを持っている、相手に当たって行くエネルギーの大きさは1/2×質量×速度の二乗で求められる、ケンは体重の軽さをスピードで補うのだ、そして瞬時にスピードを上げられるという特徴は捕まえ難さにも繋がる、掴んだつもりがするりと抜けられてしまうのだ、そしてその特徴は密集を抜け出す瞬間に最も効果的だ、密集の中で一旦は止められたかのように見えても、ケンは僅かな隙を見つけてそこから抜け出すことが出来るのだ。

 ケンもドラフトでは3巡目だった。
 大学時代は大活躍したものの、プロでは身体の小ささが懸念材料とされたのだ。
 しかし、ケンはルーキーイヤーから頭角を現した。
 クォーターバックと違って、ランニングバックは毎スナップ出場する事は稀だ、メインで起用されるのはエースランニングバックだとしても、控えランニングバックにも出場機会は与えられる、そうやってプロのパワーとスピードに慣れるとシーズン後半にはエースを凌駕する活躍を見せた。
 2年目はシーズン当初からエースの扱い、リーグでトップの獲得ヤード数を挙げてスタープレーヤーに躍り出たのだ。
 通常、ルーキーとの契約は3~4年、入団時に4年契約を結んだケンは今年で契約期間を終えた、野球のメジャーリーグでもそうだが、NFLでは契約期間が終了すれば、ほぼ自動的にフリーエージェント、FAとなる、そして、選手の総年棒の上限を定めたサラリーキャップ制が敷かれていることから、チームの顔とも言うべきスタープレーヤーでも再契約できるとは限らない。
 ケンが在籍したチームではエースクォーターバックも契約更改となる、クォーターバックもケンも大型契約を望んでいて、チームとしてはどちらか一方は諦めなければならない状況にあるのだ。
 そしてそんな状況の下で、ケンは東京サンダースに大きな関心を寄せていた。
 母の故郷日本に初めて創設されるNFLのチーム、くしくも自分の姓と同じチーム名、そして伝説的名GMのジムから熱心に誘われれば心が動かない筈もない。
 チームとしても目玉となるスター選手はどうしても必要、それが日本人の血を引くケンであるならば言う事はない。
 そして、ジムが作り上げようとしているチームは総合的にバランスが取れたチームであり、サラリーキャップに苦しめられる心配もない、ケンが充分に満足する条件は提示可能だ。
 現チームに愛着を持つケンではあったが、再契約が難航している現状を鑑みればサンダースへの移籍は決定的とも言えた。


 オフェンスの核となる二人は決定したがディフェンスの中心となる選手も必要だ。
 
「ドラフトではディフェンスを中心に指名することになるだろうな」
「ディブ・ルイスですか?」
「ご名答」

 ディブ・ルイスはアウトサイドラインバッカー、今年のドラフトでも1巡目の上位指名が確実視されている目玉の1人だ。
 身長にはそう恵まれてはいないが、大学時代は卓越したスピードと鍛え上げた筋肉から発生する強大なパワーでオフェンスラインメンをはねのけてサックを連発した。
 そしてルイスの魅力はエッジラッシャーとしての優秀性だけではない、ラン攻撃に対する確実なタックル、速いタイミングでの短いパスが予想されるシチュエーションでのパスカバー力にも優れているのだ。
 サンダースはロンドンとのコイントスに敗れて指名順は2番目、しかしロンドンはもう1人の目玉であるクォーターバックの指名が確実視されているから、ジムは間違いなくルイスを指名できるはずだ。
 
「ミドルラインバッカーは?」
「エキスパンドドラフトでミック・ハウアーを取れる算段がついているよ」
 エキスパンドドラフトとは、新チームが誕生する際に既存のチームから選手を獲得できる制度、既存チームは主力クラスを保護指定することが出来るので、この制度で取れる選手はピークを過ぎたベテランか、まだ主力にまでは育っていない若手に限られる。
 ミック・ハウアーはピッツバーグで長年ミドルラインバッカーを務め、強力で知られるピッツバーグディフェンスの要として活躍して来た。
 だが、既に35歳、ピッツバーグでも彼の後任となるべき選手を2年前にドラフト指名し、昨シーズン後半、ミックが負傷欠場してからはスターターとなってミックに劣らぬ活躍を見せた、ミックの契約はまだ1年残っているが、ピッツバーグとしてはサラリーキャップに余裕を持たせるためにミックを切りたいところなのだ、サンダースに供出することとなれば願ったり叶ったり、ミック本人も望まれないチームに残留してベンチを暖めるよりも新天地で最期の一花を咲かせたいと考えて不思議はない、ジムの口ぶりからすれば既にピッツバーグともミックとも話はついているのだろう。
 ミドルラインバッカー、ディフェンス2列目の中心に位置するこのポジションはディフェンスの要とされてきた、NFLではプレー全体のスピードが上ってきていることもあって必ずしもミドルラインバッカーを重視しなくなって来ているが、ジムはそうではない。
 リックもジムのその考え方には賛成だ。

「ピッツからはジャスティン・グレイも取れることになっているよ」
 クレイはミックと同期のディフェンスタックル、ピッツバーグディフェンスのもう1人の要だったが、既に若手にポジションを奪われ、昨シーズンはベンチを暖めることが多くなっていた、契約も昨シーズンで切れているからエキスパンドドラフトではなくFAとして取れるはずだ。
 往年のスピードは衰えているが、体格とパワーは健在で、犠牲的精神にも富んでいる。
 ミックとは親友同士でもあり、共に日本行きを決断したのだろう。
 少し衰えは見えているが、この二人が揃うならばサンダースのランディフェンスは既存の強豪チームにも劣らないだろう。
 長くサンダースディフェンスの中心を務めることはできなくとも、二人とも練習熱心な模範的選手であり、若手の良い見本となる効果も期待できる。
 
作品名:Journeyman Part-1 作家名:ST