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MEMORY 尸魂界篇

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16,帰還





 事実確認と称した、今回の旅禍侵入騒動の顛末についての事情聴取から数日、話の内容について一切秘密に、という箝口令が敷かれたものの、人の口に戸は建てられない。藍染の裏切りからこちら、瀞霊廷は未だざわつきを残している中で、その最たる理由は、旅禍のリーダーと見做されている黒崎一護である。
 更木剣八と殺り合って辛うじてでも下した一護は、護廷隊の戦闘派には一目置かれたし、空座町の『守護者』である事は公にされた為、現世駐在任務に着くような平隊員達からは崇められるに相当するほど好意的に受け入れられた。
 織姫も四番隊の回帰術よりも綺麗に傷を治す事と、旅禍の立場にいた頃からその力を惜しげもなく恋次にも白哉にも行使した勇気と親切、そしてその女らしく可愛らしい容姿が主に男性死神の人気を集めた。
 雨竜は、一護が眼鏡ミシンと渾名を付けたほど裁縫が得意であり、且、女性のドレスなどの方が得意という事から、違う意味で女性死神達にウケていた。雨竜に洋装の型紙を書いて貰いたいと列を為した女性死神はかなりの数に昇ったとかなんとか。サイズが通常ではない為に尸魂界にある洋装店ではオーダーになってしまう為にやたらと高価になるので、副隊長の地位にありながら頼むに頼めないという事態になっていた虎徹勇音は、雨竜が快く型紙を書いてくれたお陰でセミオーダーに出来ると大いに喜んだらしい。死神と深く関わりたくないと言いながら、遠巻きにされる事なく纏い付かれたのは雨竜にとっては皮肉か、禍か。
 次々女性死神の訪問を受ける雨竜を横目にしながら、一護は織姫を伴って四番隊詰所に日参した。
 顔を見せた一護と織姫を出迎えるのは花太郎だ。今日は花太郎の隣に少しだけ端正な風貌の男が並んで立っている。伊江村三席を揶揄っていた男だったような気がする。

「よッス。花太郎。」
「こんにちは、花太郎君。」
「こんにちは、一護さん、織姫さん。」
「どぉもぉ、荻堂春信です。」

 軽く挨拶してくる荻堂の態度に、織姫も同じノリで挨拶を返しているが、一護は一歩引いている。

「おや、『守護者』はこういうノリはお嫌い?」
「……見てる分には構わんけど、自分じゃノレない。」
「若いのに、ノリ悪いなぁ。」
「……ほっとけ。」

 花太郎は一護の素っ気ない態度に苦笑しながら、案内していく。

「物好きだよねぇ。雛森副隊長なんて直には知らないんだろ?」
「……藍染に騙されて傷付いた人だからな。気になるんだ。」

 藍染には、たかが五十年傍に置いただけで一生を縛った気でいるなど思い上がりだと言ったが、幻想を信じて思い入れをしていた桃が傷付いていない筈もない。
 藍染は、自分なしでは生きられないように仕込んだから、連れていけない以上殺していくのが優しさだと言ったそうだが、勝手な言い分ではあるが、ある意味では正解だと一護は思っている。だが、桃が藍染の勝手な言い分を受け入れるなら傷付かなかっただろうが、それを受け入れなかったならさぞかし傷付いた事だろう。もしかしたら、藍染が裏切った現実を受け入れる事が出来ずに幻想を見続けるかも知れない。

「今、日番谷隊長がお見舞いに見えているんですけど……。」
「冬獅郎君?」

 どうして? 言外に滲んだ織姫の問いに応えたのは一護だ。

「確か、流魂街で姉弟みたいに育ったんじゃなかったかな?」
「その通り。詳しいんだね。」
「冷静沈着な天才が、簡単に藍染に後れを取った理由を京楽さんに訊いたら教えてくれたよ。大切な幼馴染の雛森さんを傷付けられて冷静さを欠いたんだろうって。」

 荻堂の問いに、一護はさらりと答える。
 実際、一護は京楽に尋ねていたのだ。話し合いの時に冷静だった冬獅郎の態度から、簡単に藍染に後れを取った事が今一つ納得いかなかったから。“記憶”の中に桃と冬獅郎の関係もあったけれど、記憶の中で見た景色に冬獅郎が狼狽えて冷静さを欠く要素はなかったから。

「幼馴染って、そういうのあるのかなぁ。」

 何処か憧れを含んだ織姫の声に、一護はくすりと笑う。

「あ~、いちごちゃん、なんで笑うのォ。」
「うん? 幼馴染というなら、ルキアと恋次もそうだし、浦原さんと夜一さんもそうだって聞いたからさ。」
「朽木さんと恋次君も? へぇぇ、恋次君、命懸けで朽木さんを守って大怪我したんでしょ?」
「まぁ、あの二人の場合は、ルキアが気付けば何とかなるんじゃね?」
「え、そうなんだ?」
「あ、姫。くれぐれも言っとくけど、浦原さんと夜一さんにその法則を持ち出すなよ?」
「ええ~っ⁉ なんでぇ?」

 織姫のブーイングに、一護は溜息を吐くだけに留めた。浦原から聞いた話は長くなるし、花太郎や荻堂に聞かせる話でもない。

「姫。隊長格の為の一角だよ。静かにね。」
「あ……。」

 先日、やはり一護と共に訪れていた時に廊下でとはいえ、はしゃいでしまって卯の花に注意されている。
 織姫は、別段卯の花の怖さに気付いて大人しく従っているわけではない。というより、素直な織姫にとって卯の花が怖い理由はないのだ。同じように、手の早い空鶴も織姫から見たら充分優しい。空鶴は、自分に被害が及んだり、話を否定したり逆らったりしなければ、許容している事に気付いているからだ。
 “記憶”のある一護もそれは同様で、だから、空鶴の屋敷で初めて会った時に岩鷲に絡まれた時も、ドタバタせずに岩鷲を受け流し、空鶴に被害がいかないように気を付けていた。尤も、空鶴が痺れを切らして鬼道を落としたのだが。一護が喰らわなくて済んだのは咄嗟に反応して断空を張る事が出来たからで、反応出来なければ危なかった。
 桃の部屋の前に着くと、中に冬獅郎の気配がある。
 いくらもしないで出て来た冬獅郎が、一護と織姫の姿に驚く。

「何でお前らが雛森の部屋に……。」
「日番谷隊長。一護さんはここ数日、雛森副隊長のお見舞いに来てくださってたんですよ。」

 花太郎の言葉に驚く冬獅郎に、一護は肩を竦める。

「卯の花さんの許可は貰ってる。」

 言って一護はさっさと部屋に入り、桃の枕元に跪くと、そっと桃の手を握った。

「桃さん。戻っておいで。あんたを待ってる人がたくさんいるよ。あんたがあんたでいるだけで、生きてる価値があるんだ。戻って来なよ。」

 ゆっくりと語りかける一護の姿は優しく慈愛に満ちた慈母のようだ。
 一護に付いて、一角を簡単に下し、恋次にあっさり勝ち、剣八にも勝利し、白哉にも膝を着かせたという旅禍のリーダーとして聞いていた冬獅郎は、優しく包み込むオーラに目を瞠る。現世の子供にしては年齢の割に落ち着いているが、愛想が良いわけでもなく、優しい雰囲気は見られなかったのだ。
 初めて目にする荻堂も同様で、花太郎は何度か目にしていたし、織姫は知っていた事なので驚きもしないが、当たり前の様子の二人に気付いた荻堂が花太郎の肩を突く。

「山田七席。黒崎一護ってあれが普通なんですか?」

 一護に聞こえないように気を遣って小声で囁く荻堂に、花太郎は困ったように苦笑する。

「一護さんの強さは、あの優しさ故だと、僕は思いますけど。」

 花太郎が小首を傾げて織姫に視線を遣ると、織姫は桃を羨ましそうに見ている。

「織姫さん?」
作品名:MEMORY 尸魂界篇 作家名:亜梨沙