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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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砂の裸像

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放浪の生活を始めて2年が過ぎた。俺は医師免許を持ちながら、医療行為に携わったのは、研修医の半年間であった。なぜ医師として働くことを断念したかと言えば、医師社会に嫌気がさしたからかもしれない。医療行為は人を助ける聖職であるが、必ずしもそうではない一面を見たためかもしれない。勤務医も経営者も最終目的は金銭にあると感じたのだ。確かに俺自身が、医師を目指したのも、社会的地位と、報酬にあった。
 俺は研修が終わり、新たな勤務地が決まったが、その病院に行くつもりで車に乗ったが、そのまま車のガソリンがなくなるまで走り続けた。東北の果て青森であった。俺は実家に連絡を入れた。
「少し研修期間が延びた。収入が少ないので金を送って欲しい。1年分の生活費500万円頼みます」
母は大学時代から俺のわがままを許してくれた。なぜこれほど優しいのかと、母のやさしさに疑問を感じるときもあった。母と俺の年の差は20歳なのだ。父とは36歳もある。俺が一人っ子だからなのだろうと
自分は納得した。医師になり調べればわかることであったが、俺は今までの生活を選択した。父は自動車販売会社を経営し、500万円くらいの送金は、母の判断でできる範囲であった。
 最初は宿に泊まっていたが、そんな生活に飽きがきた。それに、金の目減りが激しかった。
俺は1年間は500万円で生活するつもりでいた。
 車中泊をはじめ、自分には医師のほかに何ができるだろうかと考えた。南下しながら、茨城県にたどり着いた。5月である。俺は海の近くの砂浜に車を止めた。既にドイツ車から国産のワンボックスに変えていたので、車中泊は快適であった。ただ仕事もなく過ごすことに自分自身が抵抗を感じていた。
 25度に気温が上昇した日であった。海のほうで騒がしい声がした。7,8人の人だかりであった。俺は砂浜を走りながら、その現場に近づいた。どうやら自撮りをしながら、岩から転落したようであった。既に海から引き揚げられ、救急車の手配も済んだようであったが、20くらいの女性は意識を失っているようであった。頭部から出血があった。俺は人を助けるのだと意識した。
「手当しましょう」
俺がそう言いながら、女性のわきに腰を下ろすと
「勝手なことをしないでください」
と言われた。
それでも俺は、心臓マッサージを始めるつもりで、女性の体の上からまたいで、胸に手を当てようとすると、
「ホームレスが何をする」
と横に突き飛ばされた。
 しばらくして救急車が来たが
「お亡くなりになられました」
と同行者に伝えていた。
俺は脳挫傷か海水を飲んだための呼吸機能の麻痺が原因ではないだろうかと思った。
数日後俺は濡れた砂で女性の横たわっていた姿を形どった。
胸に手を当てるともろく崩れた。俺はその胸を、再び作ったが、一粒の砂が一粒の言葉であるように思えた。俺はなぜあの時、医師であると言えなかったのだろう。一握りの砂を海に向かって投げた。











作品名:砂の裸像 作家名:吉葉ひろし