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まつやちかこ
まつやちかこ
novelistID. 11072
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the day of our engagement

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『the day of our engagement』


 我ながら相当に気合いが入っている、と思う。
 去年の同じ日もかなりのものだったけど、あの時は不安と緊張の方が大きかった。今も、緊張はしているが、不安よりも高揚の割合が大きい。
 今日は特別な日にする。去年と同じく、いやそれ以上に。そう決めていたのだ。二人で21歳になる、今日という日を。
 そのための、仕上げとなる品物を受け取って、店から出たところの道で。
 「……あれ?」
 第一声は同じだった。自分は心の中で、相手は口に出して。うかつにも、相手を一瞬、誰だったかと思ってしまった。見たことのないスーツ姿と髪型で、印象が違ったのだ。誰なのか気づいてからはかなり狼狽した。
 「名木沢(なぎさわ)じゃん」
 呼びかけられてもとっさに反応できないくらい、うろたえていた。およそ2年ぶりに会った元カノジョ、倉田都(くらたみやこ)の姿に。

 「え、倉田さんに会ったの」
 その夜、彼女ーー今の彼女である槇原友美(まきはらゆみ)の家。今年の誕生日はここで過ごすと決めていた。去年は自分の家だったから、という単純な理由もあるが、その方が今日の目的として正しい気がしたからでもある。自分が訪ねていく形の方が。
 「懐かしいなぁ、他の子と会うことあっても倉田さんは機会なかったし。元気だった?」
 倉田都と彼女は、高校のソフトボール部で同期、主将とマネージャーの関係だった。彼女が部活を頑張っていたのはよく知っているから、かつての仲間を懐かしんで気にかけるのはまったく不自然ではない、のだが。
 「んーーまぁ普通に元気そうだった。どっかからソフトで就職の話来てるって言ってたな」
 「そうなの!? えーすごい。あの大学のソフト部、今年も強かったもんね」
 応じる彼女の声に、こだわりは感じられない。それだけの年月が経ったのかと、内心ほっとする。あまり聞いたことはないが、1年前までは確実に気にしていたに違いないし、その後は話題にすることこそほとんどなかったものの、彼女なりに思うところがあると察せられる時はあったから。
 ……あるいは、そういうふうに感じたのは、自分自身にこだわりがあったからかもしれない。理由があったとはいえあくまでも個人的なことで、都に対しては別れる前、誠実であったとはとても言えない状態だった。それについては思い返すと、いつでも小さなトゲが刺さったままの心地がしたものだ。

 2年前、大学1年の7月初め。
 『悪い、倉田。これ以上付き合えない』
 そう告げた時、複雑な思いの中でも、ほっとする思いが大きかった。半年近く葛藤していた感情と、自分の曖昧な態度にやっと区切りをつけられた、そういう思いが。
 都から何を言われようとーー罵られようと責められようと、受け止めるつもりでいた。だが。
 『ーーあたし、別れないからね』
 やや長い沈黙の後、返ってきた都の第一声を、理解するのにしばらくかかった。
 『……え、』
 『別れないって言ったの。許さない、そんなこと』
 表情の読めない顔で、だが怒りのにじむ口調で言った後、都は話をしていたカフェから飛び出して行った。
 偶然にも今いるのと同じ、チェーン店の別の店。いや、あるいは店の選択は意図的かもしれない。他にもカフェや喫茶店がある中、ここにしようと言ったのは都だった。「ちょっと話、しない?」との発言にこちらが答えを返す前に。
 「まあ、我ながら意地悪だったわよね、あの時は」
 カフェオレを口にしながら、都は自分をそう評した。あれからの約3ヶ月、都とは全くの音信不通になったのだ。電話は着信拒否、メールアドレスは変更。自宅を訪ねても不在か居留守で、もう一度話をしたいと思っても為す術がなかった。
 針のむしろのような日々の後、10月の初めにやっと、都から連絡があったのだ。電話で短く。
 『別れてあげてもいいわよ、好きな人できたから』
 それきり、都とは会うどころか、何の連絡も取っていない。だから本当に今日が2年以上ぶりの再会になる。
 「とっくに、名木沢があたしを好きじゃないってわかってたのに。でもわかってたからこそ、あの時は許せなかった」
 「……だろうな」
 都の言い分はもっともである。それ以前からーー今の彼女への想いに気づいた頃から、都に対する自分の態度はどう言いつくろっても誠実とは言い難かった。忙しいのを言い訳にして会うことを極端に減らし、なのに今の彼女への想いを発散できない当てつけで、都に会った時には必要以上にキスしたりしていた。そのくせ、キス以上に進む気には全くなれなかったのだ。都がそれを強く望んでいることを知っていながらも。
 都に「意地悪」をされても仕方ない、針のむしろの日々も当然のことだったと思うしかない振る舞いだった。
 「ーーあの時は、ほんとに」
 「謝らないで。謝られるのは嫌い」
 ぴしゃりと遮られる。一度くらいちゃんと謝っておきたいとこちらとしては思うのだが、そうさせてはくれないらしい。別の話題を出すことにした。
 「今の彼氏とは、うまくいってんの」
 「彼氏? ああ、今はいないの。あの時、好きな人はいなかったけど申し込んでくる人はいたから、便乗して付き合ってみたけど。半年でおしまい」
 両手を広げる仕草で、都が説明する。「やっぱりそういうのはダメね」と付け加えながら。
 「そもそもさ、名木沢だってあたしのこと、めちゃくちゃ好きだったってわけでもないでしょ。最初から最後まで。そのわりによく続いたと思うわ」
 別の痛いところを突かれてしまった。……確かにそうだった。都に告白されてからのおよそ2年、今の彼女への想いに気づくまでの間でも、都への感情はいわゆる「友達以上恋人未満」レベルだったと思う。他の女子よりは好ましく思っていたけど、今の彼女みたいに恋しくてたまらないというふうに感じたことは、一度もなかったのだ。
 それ以前に、都と付き合うことにした理由には、女子からの告白をかわす口実になると少しは思ったからでもあった。……思い出すとやはり、あの頃の自分は我ながら子供というか、今よりもさらに自分勝手だったという気がする。
 「それ、彼女にプレゼント?」
 隣の椅子に置いた紙袋を指さして、都が尋ねた。先ほど出てきた宝飾店のロゴが入っているから誰でもそう思うだろう。
 「ああ、そう」
 「そういや今日誕生日だったっけね。……槇原さんでしょ?」
 「ーーやっぱ知ってた?」
 「そりゃあね。うちの大学とそっち、高校から同じの子多いでしょ」
 都の通う女子大は、自分たちの私大と、最寄り駅を挟んで反対側にある。近いので大学間交流も各分野で盛んだと聞く。
 「あんたの噂は相変わらず回ってくるの速いから、すぐ聞いた。まして相手が槇原さんでしょ、同窓生の間での騒ぎ、すごいなんてもんじゃなかったわ」
 そこで一息つき、ほんとはね、と都は続ける。
 「あたし思ってた。あんたが、槇原さんのこと好きなんだろうって」
 「ーーえっ」