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幹に付く無限の枝、そして枝葉

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幹につく無限の枝、そして枝葉
                            庄司 啓


矢部明雄は言った。「人は忘れることで生きていけるでやんすよ。」
また碇ゲンドウは言った。「だが忘れてはいけないこともある。」
       
大学生の私は挨拶が苦手である。その原因を自分自身に問い、洞察をしたい。


 私は普段は普通に前を向いて歩いている。何を隠そうこの私、外出先ではこれ見よがしに風切り勇ましく歩いている医学生を見事演じ切っている。

だが学校でのみうつむき加減で、いやむしろ完全に下を向いて歩いている。疲れ切った図書館帰りなどの、一人ぼっちの夜に下を向いて歩こうものなら涙はボロボロである。

 とやかく私にはそういう癖がついてしまった。大学入りたての時にはそんな癖などなかったのだが、やや近視ぎみだったこともあり、前から歩いてくる人が誰なのかよくよく確かめて、知っている人なら挨拶をしようと心がけていた。

 さて皆さんご承知の通り、大学生は往々にして同じような恰好をしていることが多い。このことも私の「人認証機能」を狂わせる原因となった。
中でも特に量産型ファッションを好む類の婦人らの弁別は私にとっては至難の業である。従って前から歩いてくる人を、近視も相まって、まるで虎が獲物を睨むかが如く顔を凝視した後、声をかけていた。

結果大恥をかきそれ以来、その恥ずかしさに負け徐々に下を向いて、目線が合わないように歩くように努め始めた。その方が明らかに楽だった。

 しかしここで新たな問題が生じた。知っている人に挨拶をしないでは失礼だったのだ。

この問題に気が付いた時、私は悩んだ。前を見て歩いていれば知らない人と目が合って―むしろ合わせに行ってしまってとでもいうべきか―、下を見て歩いていると親しくする人に失礼をこうむるという、このくだらない内的葛藤に、大学に入って此の方私は大真面目に悩んでいるのである。

 さらに悪いことに、この傾向をごく一部の人間との不和がさらに加速させた。悲しいかなこの捻くれ者にも、皆さんと同じくウマの合わない者というものは一人や二人いるものである。かつての私はその人に何度も挨拶を試みた。試みたはもののほぼ返してくれなかった(と記憶している)。尤も、これが単に私の幻想にすぎないのかもしれないが。

 一つ言い訳をすれば、私から嫌うような行動はしていない。勝手に向こう側が無視し始めたのである。そのごく一部の人間と、運の悪い日にばったり鉢合わせた時に、目があってしまうのが怖い。

このために他の(善良な)人が私の挨拶を享受できないでいるのかもしれない。何とも取るにたらず、くだらない葛藤のために!

 ぼんやりと感傷に浸っているうちに、そうか、まるで考え事をしていたふりでもして、向こう側から挨拶があればそれには応答すればよいのだと私は閃いた。

大体私には友達が少ない。向こう側から話しかけてくる人間といえばほとんどがサークル仲間か仲のいい限られた友達である。よって顔など見ずとも、声で全て判断することができるため、声にこたえることが出来るはずである。そう考えた。

 さて、私の嫌いなあの人と、将来同じ医局に入らないことだけ神様に救いを求め、寝るとしよう。

Rex tremendae majestatis,
Qui salvandos salvas gratis,
Salva me, fons pietatis.



ああ いっそ
顔なんて 無くなればいい!
顔がなければ なかみで人を見る
顔がなければ 嫌な人と
目が合って 嫌な思いなんてしない
顔がなければ 人を
少しばかり (ほんの少しばかり!)
整っているとか そうでないとかで
分けることなんて 無くなる
顔がなければ 嘘をついても
バレにくくなる


でも
顔がなかったら
家族の
仲のいいアイツの
ちょっと気になるあの人の 
顔が見られなくなる 
それは困ったなあ だっていつまでも
何を考えているのか わからないまま 
ぼくはその時だけ 顔がほしい!
ああ
顔がなくても   
こころが通じ合えればいいのに 
                       
 

おまけ

使える、使えないではない。
面白いか、面白くないか。
私は好奇心に満ち溢れている。
好奇心こそ生きる源である。
知らないものを、知ろうとする力。
どうせ生きるなら、面白く生きたい。
つまんなく過ごせば、つまんなく終わる。
どんな環境に置かれても、面白がれば、面白い。
身近に潜んでいる好奇心の種を見逃さない。
仮想世界で君のリビドー〈生への欲動〉を無駄遣いしてはいけない。
現実世界に目を向けるのだ!
面白いと思った感情を「今は忙しいから」と言って否定しない。
自分の本当にやりたいことにエネルギーを注ぐ。
君はすべてを知ったつもりになっても、
この世界には、誰も知らないことが山ほどある。     (終)