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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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春はまだ先 探偵奇談14

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冬の試練



窓の外の町はすっかり雪景色だ。年が明け、正月ムードも去ったいま、生徒たちは勉強と部活に追われる日々に戻って言いる。雪で早上がりの部活を終え、一之瀬郁(いちのせいく)は、同じ弓道部の一年女子数名と、食堂でバスまでの時間を待っていた。

「ねー見て可愛くない?新色のチーク」
「かわいいね。ピンクっていいね」
「このマスカラめっちゃ伸びるよね~」
「見して見して!」

メイクの上手な友人は、このあと彼氏と待ち合わせらしい。うらやましいなと郁は思う。好きなひとに好きになってもらえるなんて、かなりの奇跡ではないか。

「いいなあ。あたしもかわいくなりたい…」

どうすれば、あのひとを振り向かせられるのだろうか。郁は自分の好きなひとのことを考える。

「お、興味あり?郁やったげる」
「ほんと?やったあ」

メイクはあまりしない郁だが、やはり興味はある。かわいくなりたい。かわいいと思ってもらいたい。女子なのだもの。

女子一同でキャッキャと騒いでいると、同じくバス待ちらしい男子の集団がやってきた。

「…何してんの?」

郁らの座る席の近くの自販機に、同じ弓道部で副将を務める須丸瑞(すまるみず)がやってきた。背の高い彼に見下ろされると、座っている郁は小人にでもなった気分だ。涼し気な目元の男前で、校内ではかなりの有名人だった。長い手足。ミルクティー色のふわふわとした髪。甘い香水の匂い。本人が騒がずとも、周りが勝手にざわめいてしまう男なのである。

「何って…メイク?」
「須丸もやったげよっかー」

瑞は顔をしかめて自販機から紙コップを取り出すと、独り言のように呟く。