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しょうきち
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冒険の書をあなたに2

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第三章 グランバニア戦、そして更なる疑惑


 常春の聖地とは打って変わり、肌にまとわりつく湿度の高い風────ここが既に異国の地であることを物語っている。
 徐々に眩しさが収まり、各々がそろりと目を開けた。
 ポピーたちが聖地へと向かう際に立ち寄った北の教会前に無事到着を果たして、ポピー自身ほっと胸を撫で下ろす。
「皆さん無事ですか? お怪我はございませんか?」
 そう問われた守護聖たちだったが、皆一様に口を閉ざしたまま顔を強ばらせている中、見かねたアンジェリークがいち早く説明を始めた。
「ええ、大丈夫よ。ただびっくりしてるだけなの。そうでしょう?」
 穏やかにそう告げたアンジェリークだったが、実は彼女自身強い違和感に驚いていた。
 ルヴァが心配そうに彼女を見つめ、それからポピーとマーリンを見た。
「そうですね。以前に来たときとは、余りにも感覚が違っていますから……」
 ロザリアがゆっくりとアンジェリークの側に寄り添い、綺麗な眉をほんの少ししかめた。
「……どうなさいますか、陛下」
 緊張を孕んだごく小さな声で呟かれた言葉へ、アンジェリークは平然と頷く。
「勿論調整しなきゃいけないわ。ひとまずグランバニアに向かいましょう」
 そう言って守護聖たちをぐるりと見渡し、次の行動を促す。
 が、まごついた様子のマルセルが恐る恐るといった表情で声を上げた。
「あの、陛下」
「なあに?」
 さらりと風に揺れる前髪の下ですみれ色の瞳までも揺らがせて、マルセルは問う。
「ぼくたちがここへ連れてこられた理由は分かりましたけど……どうしてテーブルや椅子まで?」
 そこで初めて誰かがくすりと笑い出し、寛いだ空気がさざ波のように彼らの間に漂い始めた。

 ポピーが運んだのは人間と馬車だけではなかった。
 つい先程まで各守護聖たちが掛けていた椅子、ティーセット一式が乗ったテーブルまでもがそっくりそのまま転移してきたのである。
 アンジェリークがルヴァとこっそり視線を交わし、種明かしをしようかとほくそ笑んだところでジュリアスが先に口を開く。
「マルセル、クロスの下を見てみるといい」
 言われた通りにテーブルクロスを持ち上げたマルセルが思わず声を上げた。
「……テーブルじゃない!」
 持ち上げたクロスの下では、幾つかの大きな箱の上に板が渡されていた。
 戦いの最中で怯えたマルセルを庇うように立っていたランディとゼフェルも覗き込み、それぞれ同時に驚く。
「なんだこれ、でっけー箱!」
「クロスを掛けて、テーブルっぽくしてたのか……でもどうしてですか」
 戸惑いを浮かべた表情でランディがジュリアスへ視線を向けた。
「さあな……それについては陛下から説明をしていただかねばなりません」
 どうやら既にバレていた、と内心小さく舌を出したアンジェリークが言葉を紡ぐ。
「そうね、今から種明かしをしようと思ったところなの。皆さん、ちょっとだけお時間くださいね」
 守護聖たちが一斉に頷き返しすぐに全員が女王陛下へ視線を向けたところで、アンジェリークが穏やかに語り出す。
「先程、ポピーちゃんの魔力にわたしのサクリアを乗せました。これだけの人数で次元を超えるのは初めてということですから、念のために」
 雨はやんでいるものの依然として暗雲が空をどんよりと広く覆っており、いつまた降り出すか分からない天候の下、女王アンジェリークの声が続く。
「その箱の中には、わたしとロザリアが皆さんと出会った頃の執務服などが入っています。衣装替えしたときにお預かりしていたものですけど、ゼフェルやマルセル、ランディはサイズが変わっちゃってるかも知れないから、もし着られなかったらこちらの世界の服を身に着けてください」
 そう言って懐かしそうに翠の瞳が弧を描き、にっこりと口角が上がる。そこへ補佐官ロザリアが小さく手を挙げた。
「荷物の謎は分かりました。ですが陛下、わたくしにもどうぞご説明を。どうして女王陛下以下、補佐官と全守護聖をここへ移したんです?」
 聖地では現在進行形で要人全てがもぬけの殻、いわば危機的状況である。ロザリアは執務が滞らないかと心配し、宇宙に何かあってはいけないと思うがゆえに女王陛下の策略に頭痛がし始めている。
「それはもう皆さんが肌で感じ取れたと思うわ。理由についてはルヴァ、お願い」
 大雑把に話を丸投げし周囲を唖然とさせる中、ルヴァだけが小さく頷いている。
「承知しました。では、えー、僭越ながら私が説明をいたします」
 こほんと軽く咳払いをしたルヴァへ注目が集まり、ゼフェルがすかさず突っ込みを入れる。
「なるはやで言えよ」
「はっ? あーはい、なるべく早くですね。分かりました……ええと、以前にこちらへ来た際にですね、ポピーの仲間の魔物たちと会話ができたのは、陛下だけでした」
 ルヴァの言葉に首を傾げたゼフェルが、今は馬車の中から少しだけ顔を出してこちらを見ている魔物たちをちらりと流し見て言葉を紡ぐ。
「特にそんな不便なんて感じなかったよなぁ……」
 それへマルセルがこくこくと頷いた。
「アプールもお喋りだったもんね」
 若手二人の会話を聞いていたルヴァの視線がアンジェリークからマーリンへと移り、二人の視線が交錯する。
「そこにいるマーリン殿とも、私は陛下と共に手を繋いでようやく会話が成立していたんです。ですが、聖地ではどういうわけだか我々と普通に会話をしていましたよね」
 魔物たちと会話をした守護聖たちが頷く。
「そこで、聖地でもこちらでも調和のサクリアが関わっていると考えましてね。マーリン殿、試しに何か話してくれますか」
 ポピーの隣にいたマーリンが彼らの前に進み出て、ゆったりと話し始める。
「そうですなあ……わしは肩書きこそ魔法使いですが、かつて人だったもの。こちらでは魔の存在です」
 守護聖たちにグレーの瞳で祈りすがるようなまなざしを向けたマーリンへ、リュミエールが笑みを湛えひとつ頷いて見せた。
「先程と変わらず聞こえていますよ」
 リュミエールの落ち着いた声音がマーリンの顔から緊張を取り除く。聖地を離れ戻って来た元の世界でも言葉が通じたことへの安堵が、誰の目にも見て取れた。
 そしてその様子を微笑ましく眺めていたルヴァが話し出した。
「ええ、私にもちゃんと聞こえました。これで通じていると証明されましたね……つまりは我々守護聖全員のサクリアが揃っていることによって、そして陛下の調和のお力をもって、彼ら魔物と人間との間に在った言葉の壁を失くせた、というわけです」
 惑星の中には多民族国家間による争いの原因として、言語の違いからくるものも数多い────その事実を彼ら守護聖は重々理解していたため、このときのルヴァの言葉に対して否定する者は誰もいなかった。
「今こちらは争いの火種を抱えていてかなり緊迫していますから、私は仲間の魔物たちと直接連携を取れたほうが解決が早いと考え、危険を承知で陛下に進言申し上げました」
 聖地の要人全てを異世界へと導いた首謀者は自分である────はっきりとそう受け取れる言葉が出た一瞬、辺りから一切の音がかき消えたように思えた。
 だが次の瞬間、オリヴィエがその静寂を壊すようにふっと笑い、二、三度手を叩く。
「なぁるほどねー。考えたね、ルヴァ」