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しょうきち
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冒険の書をあなたに2

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第一章 聖地へ


 女王補佐官ロザリアがそんな宣言をしていた頃、聖地の門の前ではある騒動が起きていた。
「君、おい大丈夫か! 一体どこから来たんだ、しっかりしろ!」
 衛兵の一人がそう叫んで助け起こしたのは、癖のない金髪を長く伸ばしている少女。
 彼の目の前で魔法陣の中から突然現れたこの少女は、どこから来たのかずぶ濡れの上に服は破れ、あちこち泥だらけになっていた────天候や気温は全て決められているはずの、常春の聖地で。
 ぐったりと意識を失いかけている少女を励ましながら、衛兵は質問を続けた。
「話せるか? 君、名前は」
 折れそうなほど華奢な身体は羽根のように軽く、抱き起こした際に高熱が手のひらに伝わってきた。少女が薄目を開け、紫色になり震えている唇を必死に動かす。
「こ……こちらに、神鳥の女王陛下と……地の守護聖、ルヴァ様はおいでですか……?」
 目に涙を溜めながらの言葉に胸を痛めたが、衛兵は今見た光景に危機を感じ取り、普段の職務を全うしようと気を引き締める。
「あ……ああ。だが許可なき者は通せない。何か許可証か、招待状は持っているか」
「……いえ……でも」
 弱々しく首を横に振る少女のすぐ後方で、少女と共に現れた幌馬車から小柄な年寄りが降りてくる。
 少女を抱き起している衛兵とは別の数人が一斉に槍を構え、警戒し始めたのを見て少女が声を絞り出した。
「マーリンお爺ちゃま……出てきちゃだめ……」
 マーリンは槍を向けられても足取りを止めず、少女の傍らに跪き懐から細い瓶を取り出す。
「ポピー、これを飲みなさい。もうすぐじゃ……天使様と賢者様ならば、きっとお力を貸してくださる筈じゃからの……」
 その言葉に頷き返したポピーが瓶の中身を飲み干すと、青褪めていた顔色がほんの少し良くなった。
 ポピーはどうにか自力で動けるようになり、背を支えていた衛兵に頭を下げる。その衛兵がマーリンの言葉に不思議そうな顔をしてみせた。
「ご老人、その天使様と賢者様というのは、女王陛下と地の守護聖様のことか?」
 衛兵の口ぶりに呆気に取られた顔をしていたマーリンの頬に、やがてゆるゆると喜びが浮かんだ。
「……なんと。おぬしにはわしの言葉が分かるのか! これは素晴らしい!」
 こちらでは魔物と人との言葉の壁がないと理解するとともにマーリンの笑みが消え、静かに膝を折り両手をついた。
「この子はグランバニア国第一王女、ポピレア・エル・シ・グランバニア。わしは従者の魔法使い、マーリンと申します」
 頭を上げて心配そうなまなざしでポピーを見つめ、それから衛兵に懇願する。
「天使様……いえ、女王陛下と地の守護聖ルヴァ様にお取次ぎくださいますよう、何卒宜しくお願いいたします。許可証などはございませんが、このターバンが証拠になるでしょう」
 マーリンの懐から出された細長い布地に目を落とすと、そこには彼ら衛兵の持ち物や服装などにも使われているのと同じ、神鳥の紋章がはっきりと刺繍されていた。
 公的な行事のときを除けば、地の守護聖がこれと良く似たターバンを常日頃から頭に巻いていることを思い出し、衛兵はいかつい表情を緩めた。
「この紋章は……! 確かに、ターバンは地の守護聖様がお召しです」
 ポピーは再びぜいぜいと呼吸を荒くしながら、マーリンに視線を送る。そして彼の懐から手紙が差し出され、衛兵の手に渡った。
 ひとつ難関をクリアしたことで安心した様子を見せたポピーが口を開く。
「それと共に、わたしの父でありルヴァ様の友人、リュカの危機だとお伝えくださいますか……ルヴァ様ならわたしたちの世界の文字にも精通されてます」
 一度は快復したように見えていたポピーの顔色がまた青褪め、力なく頽れたところを慌てて抱えた。
「すぐに補佐官様にお伝えしてまいりますゆえ、あなたはひとまず医務室へ。酷い熱だ」
「おねがい……します……」
 涙ぐみ両手の指をしっかりと絡めて祈るポピーを軽々と抱き上げ、衛兵は微笑む。
「何か深い事情がおありのようだ。幸い、我らが神鳥の女王陛下をはじめ守護聖様も皆、とてもお優しい方たち……お知り合いの危機に目を背けるはずがありませんよ。だからあなたは安心して休むといい」
 ポピーは衛兵の温かい言葉にこくりと頷き、それから潮が引くように気を失った。

 そのままポピーが医務室に運ばれたという知らせを受け、御前会議は一旦中断を余儀なくされた。
 補佐官経由で手渡された手紙に目を通すなり、ルヴァの顔が険しくなった。一年前リュカに手渡したはずの、旅の最中にボロボロになったターバンに視線を落とし、あの世界の文字を読めるのはルヴァだけと知っているアンジェリークが問いかける。
「ねえ、なんて書いてあります?」
 書面から視線を上げ、青灰色の瞳がじっとアンジェリークへと注がれる。
「……リュカが行方不明になったんだそうです」
 他の守護聖たちが固唾を飲んで見守る中、室内の空気がぴりぴりとしたものに変わっていく。そこへアンジェリークが穏やかに続きを促す。
「続けてください」
 再び書面に目を落として文章を追い、しっかりと内容を確認した後でルヴァが要約して話し出した。
「現在あの世界ではどんな治療も効かない伝染病が流行り、リュカが特効薬の材料を探しに行ってそのまま戻れなくなった、とのことです」
 ルヴァはそう話しながら「戻らない」ではなく「戻れない」と書かれている点に引っ掛かりを感じていた。
 アンジェリークは小さく「うーん」と考え込みつつもおもむろに口を開く。
「分かりました。それでわたしたちに助けを求めに来たのね……可哀想に。ロザリア、ポピーちゃんの様子について何かありますか」
「はい、陛下。医療チームから、感染症の疑いありと報告が来ていますわ。現在特定を急がせていますが、数日かかる見込みです」
 そう言ってロザリアは医務室での出来事をふと思い出していた。
 気を失っている少女の側から片時も離れようとしない小柄な老人が、その感染症の話をしていたからだ。
 自分たちの世界ではまだ治療法が見つかっていないと聞き、ロザリアは初めから他の患者との接点がない個室を手配していた。
 言葉は短いものの要領を得た説明に、アンジェリークは納得した顔でひとつ頷いて言葉を繋ぐ。
「では意識が戻り次第、すぐにお見舞いに行くわ。あの子から詳しく話を聞かないことにはどうしようもないもの」
「はい、そのように取り計らっておきます。他の方々についてはどういたしましょう? マーリンというご老人も一緒ですが……」
「んー、ルヴァの館に滞在して貰ったらどう? ほら、あの本のこととか聞けそうでしょ」
「そうですわね、ではその方向で」
 女王陛下と補佐官はにっこりと微笑んでそう話し合うが、館の主であるルヴァ当人には何一つ訊かれることはなかった。
「え、ちょっ……」
(マーリン殿なら別に構いませんけど、それにしたって私に一言くらいあってもいいんじゃないでしょうかね……)
 勿論そんな心の声を口にするわけにもいかず、ルヴァはため息とともに小さく肩を落とした。
 その姿に吹き出したゼフェルが突っ込む。
「相変わらず拒否権ねーのな、オッサン」
「まあ……断る理由もありませんしねえ……」