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第一回・怖いもの選手権顛末記

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【拝啓 番町皿屋敷・お菊様
 この度、『第一回 怖いもの選手権』を開催する運びとなりました。
 日本全国より、幽霊、妖怪の皆様をお招きし、二千五百名収容のホールにてステージ・パフォーマンスを披露して戴き、観客の皆様の押しボタンによる投票で順位を決めるコンテストでございます。
 つきましては高名な幽霊でいらっしゃるお菊様にもご出演を賜りたいと……】

「何? これ……怖さに順位なんてつけてどうするのかしら……」
 お菊はその手紙をポイと放り出した。
「怖さに順位なんて……人を怖がらせるのが幽霊の仕事だけど、あたし、あんまり怖がらせるのって好きじゃないのよね……幽霊をバカにしてるのかしら……」
 そう独りごちたが、どうも気になって仕方がない。
 本当に自分は怖がられたくないのか……胸に手を当てて考えてみる。
 概ね二百年前、お菊は江戸中の話題を一手に集めたことがある、お菊が棲む井戸の周りには夜な夜な人垣が出来たものだ。
 『観客』の多くは独身男性、お菊が九枚目の皿を数えるのを聴くと死んでしまう、と言うスリルとお菊の美貌に吸い寄せられるように多勢が集まったものだ。
 九枚目を聴くと死んでしまう、と言うのは実はガセネタだ、そんな事は起こりはしないし、お菊自身、人を取りとり殺す霊力を備えているわけではない、そんなことが出来る位ならさっさと青山主膳をとり殺していただろう。
 実際の所、幽霊と言うものは人畜無害なのだ、実体がないから怖がらせること以外は何も出来ない……恨まれる側が発狂したり変死したりするのは、自らの罪の意識に耐えられなくなったからに過ぎないのだ、それを起こさせることが『とり殺す』ことだと言うなら、それだけは可能だが……。

 しばらく考えていたお菊は手紙を拾い上げた。
 お菊のブームは一年ほどで終わってしまい、それ以後も毎夜皿を数えてはいるのだが、観客がゼロのことも多い、特にこの五十年ほどは忘れ去られた存在と言っても良い位に。
 あのブームの熱気がお菊の胸に蘇って来る……何と充実した日々であったことだろう……幽霊としての本分、人を怖がらせることが存分に出来た上に、その美貌も誉めそやされた……お菊は慎ましやかな性格だが、女と生まれてきた以上、美しいと褒められて悪い気がするはずもない……ちょっと太めなのを気にしていた脚はもうないし、あがり性で人前に出るのは苦手だったが、幽霊となってからは心臓が打っていないのでそれも克服した……。

「出場してみようかな……マイナス要素は何もないわけだし……あ、でも、どうやって返信すれば良いの? って言うか、そもそもこの手紙ってどうやって届けられたのかしら……」
 その答えは最後に書かれていた。

【もし、ご出演いただけるのであれば、同封いたしました封筒に出演承諾書を封緘し、井戸の外に出して置いて頂ければ、時空を超える、濃い顔立ちのポストマンが回収させて頂きます】