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慈雨と甘雨 fin

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突然だった。爆音が背中全体を襲い、その振動で爛れた皮膚が刺激され、背中に心臓があるかのような拍動が痛みとなって伝わってきた。その拍動は血液ではない何かを手に一瞬で運び、本能的に棒にすべての力でつかまった。四つん這いになり、力を込めた瞬間、ジウの真横を轟音と共に何かが通っていく。抱えきれないほどの轟音と爆音が全身を刺激し、視界は作り上げた一瞬のイメージだけを頼りにその何かを捉えた。デンシャだ。
 掴まる棒自体もデンシャが作る風で大きく揺られ、ジウの体も揺られ、同時に違う方向に揺られたため、しがみつくことすら困難だった。さらに強く握るため、呼吸は止まり、酸素が欠乏し、目は強く瞑るため、一瞬しか景色は見えていない。小さな黒い体にある全力を体のいたるところにこめ、全身の血液を沸騰させるように熱を上げる。今、横で何が起こっているのか、それすらわからない。
 そして一瞬で揺れが収まった。残った乱気流が棒を揺らす。ゆっくり目を開くとデンシャははるか向こうを走っていた。確かにセンロ上を走っている。轟音が耳あたりの良い風切り音に変わっていく。
 すると次は体が持ち上がった。顔が足より高い位置になり、その上昇は止まらない。見える大地が遠のいていく。小さかった草や石がさらにその存在を薄くさせた。遠くなっていくにつれ、景色が大きな額縁にはめられた絵画に見えだした。無数の色を際限なく使われた豪華な絵画。遠のくことによって広がるはずの視界が逆に囲われていくように思えた。
ジウの体は棒にしっかり掴まっている。棒が上昇しているのだ。
 願ったことが起きた。天高く昇っていく。カンウがそばにいたら歓喜に次ぐ歓喜で、フミキリの爆音を掻き消すほどのものだろう。
 目線に広がる空の色はとても綺麗で、夏の入道雲が見えそうなほどからっとしている。うみの青ではないが、青の原色に近い、青空に浮かぶという実感が湧いてきた。
 頭と足の関係が重力と直線になったと皮膚科を流れる血流からわかった。素直に流れていく血流。何とも清々しい風景と血流。心がこの光景に沈んでいく。
 感動、に似た感情は一瞬だった。ゆっくり昇っていた体が左右に強く揺れた。体の芯が揺さぶられ、血流は著しく阻害される。心の浮つきによって生じていた力の緩みも相まって、ジウの体から棒が離れていく。青い空と、無数の色で作られた大地の狭間に身一つ投げ出された。
 そのあとは言うまでなく、ただの落下で、ジウはその落下の間、ただカンウの姿を自分に重ねていた。記憶がただただ虚しく空に投影され、命の終わりが色濃く体を巡る。



 一匹の蟻が棒から振り払われたその時、私は雨を降らそうと思い、雲を揺らした。降り出した雨が一粒、大地に落下した時、既に蟻は大地で息絶えていた。まき散らされた細かな残骸や体液の上に降り注ぐ雨。その雨が蟻の最期を色濃く地面に残し、この先の厳しい冬の寒さに一つの温かみがそこに生じ、周辺の草に最後の活力を与えるだろうと、私は期待を込めて思った。







作品名:慈雨と甘雨 fin 作家名:晴(ハル)